日本の米輸入、関税化に移行

■米の関税化に伴なう食糧法の一部改正案など4法案が可決し成立したことから、1キロ当たり351・17円(1999年度)、同341円(2000年度)の米の関税化が1999年4月1日からスタートしている。

 関税化の国際的な手続きは具体的には、WTOの場で約束した関税率譲許表の修正をWTOに通報することになっており、3カ月以内に加盟国から異議・留保の申し立てがなければ修正は「認証」され、国会の議決を経て発効することになっていた。しかし、ウルグアイ、アルゼンチン、欧州連合(EU)などが「関税化に対しては理解するが、玄米・精米・砕米や調整加工品など個々の関税率設定についてより明確な説明を求めたい」と世界貿易機関(WTO)に異議などを申し立て、日本側との協議を申し入れたので関税譲許表の変更は棚上げされ、WTOの認証手続きは一時ストップ。しかしながら農水省および日本政府は、算定方法に問題はないとして、国会で成立させた「食糧法改定」をもとに、WTO協定上の手続きがストップしたまま米の関税化に移行した。

※その後、WTOに異議を申し立てていた各国は、新ラウンドの中で協議するとして申し立てを取り下げ、唯一残っていたウルグアイも2000年11月10日に異議申し立てを取り下げた。

 農水省および農協中央会は、世界貿易機関(WTO)の次期農業交渉で毎年2・5%(現行の農業協定による関税削減率)の関税削減が決まった場合でも、1キロ当たりの従量税は2004年に約300円、2014年に約200円、2024年に約100円になるので、当面は、関税の壁でガードできるとみている。
 現実には1キロ当たり約150円の従量税になる時期あたりから内外価格差や輸入差益で、国内米との価格差が殆ど無くなる計算になるので、関税の壁の効果も薄く、輸入米が増すという指摘に対しては、輸入が急増した場合に通常の関税額の3分の1までを特別緊急関税として追加できるようにしているので問題はない、としている。
 しかし、関税削減率が今後、一定に保たれるという保証や、日本側の関税化施策が国際的に支持される確約は皆無というのが実情だ。

 関税化に移行しても、第一幕の多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)での最低輸入義務(ミニマムアクセス)は今後も課せられることになっており、2000年以降も毎年、約70万トン弱のミニマムアクセス米は抱え込む必要がある、という課題が残されている。

米卸や商社、米輸入の準備を開始

 既に、米卸や商社の間では、ミニマムアクセス米によるマークアップ方式の入札(最低輸入義務数量の米を食糧庁がSBS米として入札にかけ、いわば関税に相当するマークアップを上乗せして米卸や商社などが買い入れる方法)で、米の関税化や輸入米の買い入れの予行演習は、1995年から実施済みだ。例えば、中国産の米を1俵(60キロ)4000円程度で輸入し、マークアップの上限1キロ292円の1万7520円を上乗せして2万1520円で買い入れるという調子だ。実際には60キロ5000円程度の輸入米にマークアップで9000円程度支払い、60キロ1万4000円程度で買い入れて、業務用米を利用する外食産業などに納入している。
 また、中国やベトナムなどで精米工場を確保し、商社や大手米卸の先行投資も活発だ。例えば伊藤忠、三井物産、トーメン、ニチメン、木徳などは中国現地法人との業務合併による精米会社設立を済ませており、契約栽培による稲作指導も現在進行形だ。

 「高関税により1999年度は輸入米に手を付ける米卸や商社はない」というのが、関税化移行の際の農水省やJA全中(全国農協中央会)などの見解だったが、実際には米の高関税化移行と同時に実験的な米輸入の計画は民間レベルで始まっていた。現在は「精米機の性能試験用」や「加工食品の試作用」あるいは「食品フェアー用」として輸入量も100トン未満と少ないが、これからの米輸入に向けて着々と準備が進められているのが実態だ。さらに5年後の関税率がどうなるかも現在のところ不明で、これで事実上、米の完全輸入自由化時代到来の第二幕が開いたということになる。

米輸出国の動き

 一方、アメリカ政府はWTOへの異議申し立てを一旦見送り、新ラウンドの中で、「高関税の代償として義務づけられているミニマム・アクセス枠の拡大」と「ミニマム・アクセスの枠を超える輸入にかかる高関税率の引き下げ」の二点を具体的目標として日本の米の関税率引き下げを求める方針。また一時は、スーパー301条(不公正貿易国の特定と制裁)を復活させ、農産物に関してもアメリカ産農産物の輸出拡大を目指して今後、各国との協議を進めていくことも決めたが、WTOでの交渉を優先させる模様だ。
 また、ミニマムアクセス(最低輸入義務)で日本へ米輸出を実施しているオーストラリアは「関税化には反対しないし歓迎だが、税の算定方法(玄米・精米・砕米や調整加工品もひとくくりにした関税率設定など)に問題があるし税率が高すぎる」との考えを明確に示してWTOに異議を申し立てていたが、それを取り下げ、アメリカと同様にWTO閣僚会議後にスタートさせる新ラウンドの中で、日本の米の関税率引き下げを求める方針を決めた。

 EUは、1999年5月に訪欧した中川農水相(当時)との欧州委員会・農業担当委員らとの会談で、WTOの次期貿易交渉への取り組みでは、農業が果たす多面的な機能など日欧共通の主張を軸に協調を深めていくことを確認しあったものの、日本が実施した米の関税化については「関税化の原理原則は理解するが、未だに玄米・精米・砕米や調整加工品など個々の関税率設定や税率算定の手法など、技術的な疑問点が解消されていない」と、WTOに申し立てている異議の撤回はしないとの方針を再三、示していたが、99年9月にこの異議を取り下げた。

WTO、新ラウンド(次期多角的貿易交渉)の動向

 WTO閣僚会議が1999年11月30日、NGO(非政府組織)が「過剰な自由化」を牽制するためにデモ行進を実施するなどの抗議行動で大混乱して始まったが、協議そのものも最終調整で紛糾、新ラウンドに向けての宣言案づくりは不調に終わり、ジュネーブで開く次回以降の会議に持ち越しとなるなど、前代未聞の幕引きとなった。

 ガット(関税貿易一般協定)を経て1995年に多角的貿易体制へと移行したWTOの協議は、新ラウンド(次期多角的貿易交渉)へとコマを進める前に、大きくつまずき、これで、今後の新ラウンドに向けての日程は、大幅に遅れることが必至の情勢になった。

 先のUR(ウルグアイ・ラウンド)の合意事項では、「農業」「サービス」の2分野については2000年から交渉を開始することが明記されているため、この2分野を先行させて今後、交渉に入る可能性もあるが、今回の閣僚協議で交渉方式や期間が決定できていないため、ルールや段取りとすれば交渉には入れないことになり、現段階では実質的交渉は不可能な情勢だ。

●これまでの動き
 これまで、2000年から始まるWTO(世界貿易機関)の新ラウンド(次期多角的貿易交渉)の交渉対象と交渉の妥結方式などが検討されてきたが、まず5月の本会議では、交渉対象としてすでに確定している農業とサービス分野以外に「鉱工業品関税の引き下げなどを加える」ことおよび「交渉期間を3年程度とする」ことで一致。アメリカは新ラウンドに「包括」の表現を使うことに消極的なため、声明では「幅広い分野を含む交渉」との表現が採用された。

 WTOの新ラウンドでの実質的交渉での妥結方式をめぐっては、日・EUが主張する「一括受諾方式」に対し、農業とサービスなど、分野別に妥結順に受諾を実施したいアメリカやカナダとの溝が埋まらず、結論は先送りされていた。

 また、日本、アメリカ、カナダ、 欧州連合(EU)とオーストラリアによる5カ国農相会議では、遺伝子組み換え作物の安全性や貿易問題を、新ラウンドの議題とすることで意見が一致していた。

 日本政府が宣言に盛り込むことを主張している「農業には貿易の側面以外に環境保全など多面的な機能がある」との多面的機能論については、「あたかも貿易障壁となるものまで含まれるように響く多面的機能という概念は、まったく定義がなく、貿易上、不適切でかつ無関係」との認識が主流で、アメリカ、カナダ、オーストラリアとは認識の違いが浮き彫りになるだけで、まったく理解を得ることができなかった。

 また、輸出国の農産品に対する輸出補助金や輸出相手国企業に資金を低利融資している制度についての撤廃問題は双方、水かけ論に終始して解決策は見あたらないまま推移。この輸出補助金は、開発途上国などの輸入業者が輸出国の農産物を輸入するための借入金を、輸出国が債務保証する制度や、輸出国側の海外統治領国が、輸出国側から輸入して国内販売などをして得た利益の一部を非課税にする制度などで、WTOは2000年10月までに撤廃すべきだとしている。

 いずれにしても、「双方の主張に配慮した形での落とし所が検討される模様」との予測で、今回の閣僚会議では新ラウンドに向けて、玉虫色の宣言が採択される雰囲気が強まっていたが、調整に加わっていないアフリカや中南米などの55カ国が連名で「不透明なプロセスで決まった閣僚宣言には同意できない」との声明を発表するなど、詰めの段階で一気に不満が噴出。
 主要国での協議でも、農業の輸出補助金問題でEUが「撤廃」の表現を削除するよう強く求めるなど、紛糾し、調整は不調に終わった。

 ちなみに今回の協議における最終原案によると、新ラウンドの交渉テーマは、農業、サービスなど7分野となっており、「幅広い分野を対象に、すべての分野の合意ができた時点で、合意の結果を受け入れる一括受諾方式を採用する」としていた。

 1995年に発足したWTOは、前身のガット(関税貿易一般協定)の時代を経て、自由貿易体制づくりに向けてただひたすらに「推進」の旗を掲げて進んでいた。
 保護主義的な経済ブロック化が第二次世界大戦を招いたとの苦い経験から、過剰な保護主義に陥らないようにとの趣旨で、ガットは、8回のラウンドを通じて、関税の引き下げや貿易障壁の削減を実現し、世界に向けて自由貿易拡大を促進した。しかし、「戦後の自由貿易体制の守護神」とも冠されてバトンを引き継いだWTOは、いとも簡単にラウンドの立ち上げにつまずいた。

 そこにあったのは、WTOが推進する自由貿易に対する不信感の広がりと、議長国・アメリカの、来年の大統領選挙を意識し過ぎた姿勢に対する嫌悪感だった。
 また、今回の現実は、全会一致方式による意思決定・意見集約の難しさのみならず、既に世界では一定の自由化が進んでしまい、新ラウンドを立ち上げる推進力が加盟国に働いていないことを、一面で裏付ける結果にもなった。

 WTO体制は、先進国20数カ国で産声をあげてから、加盟国数は今や135の国や地域に増え、3分の2が途上国で占められている。そうした状況の中では、先進国20数カ国だけで物事を決めることは無理だという現実を、今回の失態は象徴した。
 特に鮮明になったのは、UR(ウルグアイ・ラウンド)合意の恩恵を享受できていないとする途上国の「不満」だった。
 前身のガット発足以来、途上国が100カ国を超えて多数を握りながら、半世紀以上にわたり先進国に主導権を握られ、疎外感を味わい続けてきた加盟国の面々。彼等は、日米欧の三極だけで物事を「玉虫色」に塗って片付けようとしたコシャクさに対して、率直に反旗を翻し、先進国中心の議会運営に、とどめを刺した。

 皮肉なことに軟弱な日本は、従来なら、農業問題を巡っては、「保護主義者」というレッテルを貼られて右往左往する場面だったが、反骨を示した途上国に救われた格好となった。

リンゴなどに対する「植物検疫」では、既にWTO提訴で日本は完全敗訴、市場開放が決まった。

 日本が行なうリンゴなどに対する植物検疫が輸入障壁に当たるかどうかをめぐる貿易紛争で、世界貿易機関(WTO)の上級委員会は1999年2月20日、日本側に改善勧告を通知。3月19日にWTOの紛争処理機関会合で正式に採択されたことから、事実上、市場開放が決まった。

 これで日本側は、リンゴなど果実検疫の問題についてのWTO提訴は、「完全敗訴」ということになり、日本政府は遅くとも30日以内に「改善」を表明し、2000年までに検疫制度の改善策をまとめて広く内外に提示し、輸入障壁をとりのぞかなければならなくなった。

 これまでWTOは紛争処理小委員会で1998年10月、アメリカの主張を取り入れ、日本が新たに輸入解禁するリンゴに対し、品種ごとの検疫データ提出を求めているのは「科学的根拠に基づいていない」と判断、「検疫に行き過ぎがあった」とし、検疫方法の簡素化を求める日本敗訴の最終報告書をまとめ、日本側に言い渡していた。
 これを受けてアメリカのバーシェフスキ通商代表は「日本がWTOの義務を果たし、リンゴなどの市場開放をするよう期待する」と声明を発表。日本にとっては焼酎の酒税をめぐる紛争に続くWTO紛争処理委員会での敗訴となり、農水省は「承服できない」としてWTOの上級委員会への申し立てを行なっていた。

 日本は現在、アメリカ産リンゴ2種類を輸入しているが、アメリカは新たに「ふじ」など5種類を輸入解禁するよう要求していた。これに対し日本は国産リンゴが病害虫に侵される恐れがあるとして、新たに輸入解禁するリンゴについても、解禁済みのリンゴと同様に品種ごとの検疫データの提出を求めていた。このためアメリカは「行き過ぎた検疫は貿易障壁に当たる」としてWTOに提訴。日本側は、「品種ごとに殺虫効果が異なる可能性があることを示す科学的根拠に基づいて行なっており、衛生植物検疫措置の適用に関するSPS協定を順守している」と主張してきた。

 WTOの上級委員会で最終的にアメリカの主張が通り、これでリンゴやサクランボなどの対日輸出に弾みがつくことは確実になった。また今回の日本敗訴は、今後の米輸入と高関税の問題の行方も暗示しており、日本側農政機関の対策案が追い込まれていくのは必至の情勢になっている。

バナナ紛争の勝利やWTO加盟に向けての中国との農産物輸入の協調路線で、気勢があがるアメリカ。

 EU(欧州連合)のバナナ輸入制度を巡って、アメリカが不満をあらわにし、WTO(世界貿易機関)に提訴していたいわゆる「バナナ紛争」で、WTOが「EUはWTO協定に違反し、アメリカに年間約2億ドルの損害をもたらしている」と認定したのを受けて、アメリカ通商代表部は、異例の「WTO認定」下でのお墨つきの「対EU制裁」を決めた。

 このバナナ紛争は、EUが旧植民地(アフリカなど)からのバナナ輸入を優遇しているとして、 アメリカや他のバナナ生産国がWTOに訴えたことに起因する。WTOはこの訴えを認め、EUに対し1999年1月1日を期限に制度の改善を義務づけていた。しかし、アメリカ側は「改善が不十分だ」として今年3月3日にしつこく被害額を提示し、WTOに損害認定を求めていた。また、それと同時に通商法301条に基づいて15品目総額5億ドル分の制裁リストを発表し、「いざ制裁の発動へ」と意気込んでいた。
 その矢先のWTOの損害認定で、アメリカはすっかり気を良くし「すでに示しているリストから被害認定額相当の品目を選定して3月3日にさかのぼって100%の制裁関税を課す」という方針を決めた。

 ちなみにWTOの認定を受けての制裁発動は、WTOの前身であるガット(関税貿易一般協定)時代を含め、多角的貿易体制下では初めてのケース。

 そしてアメリカは、この大きな勝利と、中国のWTO加盟に向けての農産物輸入の協調路線確認をバネに「欧州や日本に対する通商交渉はもう勝ったも同然。日本の米の高関税化を崩すのもいとも簡単で『そんなばなな(馬鹿な)』と言われようが、朝メシ前だ」と気勢を上げているとか。

 また、中国のWTO加盟に向けての動きに反応した台湾経済部は中国関連部局の合同会議で、これまで輸入を禁止していた中国産の穀物などの農水産品150品目の輸入を解禁することを決定した。ウーロン茶葉の輸入は見送られたが、一度に150品目もの輸入解禁は初めてで、今後はすべての輸入規制について見直しの作業に入る模様だ。


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