コラム

●NATO空爆が残したもの●

 アメリカ主導によるNATO軍の空しいユーゴ空爆がやっと終わった。

 当初、NATOとすればコソボ自治州のアルバニア系住民への虐殺に象徴される迫害をユーゴ・ミロシェビッチ大統領の「民族意識による非人道的浄化作戦だ」と非難し、「人道的見地から和平を促進させる」という大義名分を用意し、国際世論を味方にしてユーゴを武力でねじ伏せ、ミロシェビッチに和平案を受け入れさせるのが狙いだった。
 しかし、空爆効果という表面的な幻想での「武力でねじ伏せる」思惑の実現は、米軍自慢のステルス攻撃機の撃墜が一面を象徴したように簡単なものではなかった。また「人道的見地での攻撃」は、逆にコソボからの大量難民の流出に拍車をかけた。否、そればかりではなく誤爆による民間人の死傷者増など、いわば「非人道的な状況」を生んだりと、いずれも皮肉な結果になった。
 その間、ユーゴスラビア・コソボ自治州から、マケドニアなど隣接する国に避難する難民は合計100万人にも至ったとされている。

 国連難民高等弁務官事務所によると、NATOの空爆開始以来、コソボ州から避難したアルバニア系難民は、アルバニアに約44万人、マケドニアに約23万人、モンテネグロに約7万人、ボスニアに約3万人が流入。トルコやクロアチア、ブルガリアにも約3万人が避難したという。欧州連合(EU)やNATOは、難民10万人を一時受け入れる方針を決めたが、空爆開始後2カ月間で受け入れたのは約5万人にとどまり、バルカン諸国に難民の受け入れを依存し続けた。
 さらにNATO空爆は、民間人の死者1500人以上、負傷者約5000人以上をうみ、その4割が子供という現実は、「典型的な戦争犯罪」にも至った。

 戦闘行為が開始されるとすべての価値観が変化し、ユーゴ・セルビア勢力側からすればNATO軍が鬼で、クリントンがヒトラーに見え、コソボ・アルバニア勢力やNATO側からすれば、ユーゴやセルビア治安部隊が鬼で、ミロシェビッチがヒトラーに見えるという「どっちもどっち」の状況だった。そして、多勢・無勢の価値観がゴチャマゼになっての批判も乱舞する中で、国際世論の数や国際勢力の強さで破壊行為や殺人行為が正当性を持ってしまうといういつものおぞましさも鮮明になっていた。

 ユーゴが和平案を受諾し、ユーゴ軍のコソボからの撤退やNATOの空爆停止が実現し、今後の平和維持活動に重点が移された今、思いをめぐらすのはやはり、難民が安全にコソボに帰還できる保証の確保と、今後予想される「コソボ紛争後遺症」の深刻化だろうか。
 そして、うっすらとユーゴ・コソボ紛争に解決の糸口が見えた今、わたしたちが認識する必要があるのは、ユーゴが行なった虐殺が人道的に許し難い犯罪なら、NATOの空爆もまた人道的に許されるものではない戦争犯罪だということだろう。どちらかが正しくて、どちらかが間違っているという戦争や戦闘行為は、この世界にはありはしないのだから。

 百歩譲って、戦闘行為を認め、少なくとも5000億円は下らないといわれる空爆経費を投入して70日を超える出撃を延べ3万機以上で展開してユーゴ軍を追い詰めた、という空爆の成果をNATO寄りに考えるとしても、予想以上の泥沼化で長期戦になった上に一般市民を巻添えにした誤爆続きと、加えて中国との関係を完全に冷却化させ、対ロシア関係も悪化傾向を示しているという事実を見れば、冷戦後のNATOの存在意義を「利害団結できる武力集団」として世界に誇示できたものの、戦略は誤算続きだったととらえる以外にはないのではなかろうか。
 勿論、「われわれは正しいことを行なって勝利した」と空爆停止の際に演説したクリントン大統領のように、「正義」を誇張し、「地域紛争の解決は、軍事力」という解釈をこれからも続けたいのであれば話は別だが、今後もゆめゆめユーゴ・コソボ紛争を解決に導いたのはNATO軍の空爆の成果である、との論調だけは避けたいものである。
 
 そしてまた、世界情勢を政治勢力に例えれば、与党としての欧米と野党としての露中や諸派・無所属の多くの国という図式の中で、価値観や文明感などの一極集中を狙う与党諸国の動きに対しては、マスコミや論壇の価値観に左右されることなく、また覇権主義や強権政治などと決めつけることもなく、やはりひとり一人の個人として透明感ある視点を持ち続け、公正な国際秩序が構築されることを、これもまた個人の生活を通して、深く広く注視する必要がありそうだ。
(6/11)

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●ユーゴ空爆作戦について、ボスニア駐留国連保護軍のイギリス・ローズ元司令官は『タイムズ』紙への寄稿で、「住民弾圧阻止という当初の目的は達成されなかった。将来、より効果的に人道的戦争を戦う方策を検討すべきだ」とユーゴ空爆作戦そのものを批判しているが、ユーゴ空爆の成果を見直す作業を始めたNATOも、空爆の成果を、空爆期間の78日間中一貫して誇示し、発表を続けていたほど壊滅的な打撃を与えていなかったとする見解に至ろうとしている。
 ハイテク兵器を駆使した今回の作戦は、軍事的には攻撃確度の高い作戦と評価が誇張されている面があるが、命中精度の高いレーザー誘導爆弾などの誤爆をはじめ、軍事的に有効な破壊的中率も低く、「コソボにある3割の兵器を破壊した」という発表さえも、「おとりを爆撃した数も成果に数えられ、発表は誇張されていた」との話も出始めた。また、ミロシェビッチ大統領が譲歩する決め手となったのは、「空爆ではなくロシアの説得だった」とする見方が、NATO内部でも広がっている。

●NATOによる空爆中、欧米の各政府が「虐殺などによるアルバニア系住民の犠牲者数は数万から1 0万」と繰り返していたが、国連などの調査が進むに連れて、それはやはり欧米政府が空爆を正当化するための情報操作だったという実態が明らかになりはじめている。
 海外の新聞などは、国連チームの一員の話として、「大量虐殺の情報に基づいて調べた炭鉱などに遺 体はなかった」「国連側は約4万人の犠牲者を予測し、態勢をとっていたが、実際には200人に満たなかった」「欧米政府が主張しているような規模での虐殺はなかったのではないか」と報じるなど、疑問点が表面化しつつある。
 これまでも、実際の犠牲者は多くて5000人〜7000人という見方があったが、当時は国内のマスコミも含め、多くのメデイアが「虐殺数万人」を報じ、NATO空爆の正当性を演出した。

●NATO軍は、約80日間におよぶユーゴ空爆作戦で、計約3万1000発、重さにして計10トン近くの劣化ウラン弾を使用していたこと認めた。
 このことを発表したUNEP(国連環境計画)によると、ロバートソンNATO事務総長がアナン国連事務総長への書簡の中で明らかにした、というもので、劣化ウラン弾は100におよぶ特別作戦を通じ、アメリカ軍などのA10攻撃機からコソボ全域に投下された。

 この書簡は事務総長のほか、ニューヨークやジュネーブの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国連緊急援助調整官室(OCHA)幹部らにも届けられたが、国連側は直ちに公表していなかった。

 劣化ウラン弾は破壊力を高めるため、ウランの廃棄物を弾芯しんに用いている。このため毒性も指摘され、健康や環境への悪影響が懸念されている。
 湾岸戦争でも使用され、これが原因とみられる兵士の健康被害が表面化し、政治問題にまで発展している。

 UNEPなどの国連専門家チームは、今回提供された情報は不十分だとして、「特に使用量が多かったコソボ西部ペチから南部プリズレンに至る幹線道の西側の着弾地域を特定できる詳細な地図」「A10型機がコソボ以外のユーゴスラビア領人口密集地で活動した情報」などをさらにNATOに求める。

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