■ブナシメジ収穫後の使用済み培地にダイオキシン分解能力実証
ブナシメジを収穫した後の使用済み培地=廃培地にダイオキシン分解能力があることが、広島県立大微生物工学研究室の試験研究段階で実証された。
これは広島県立大の微生物工学研究室がブナシメジを収穫した後の使用済み培地を焼却灰にまぜてダイオキシン濃度を調べ、効果を確認したというもので、今後、極めて注目される実験になっている。
実験した森永力教授らによると、焼却灰200グラムにブナシメジ8号菌の使用済み培地20グラムをまぜたサンプルを10種類用意してダイオキシン濃度の変化を見ると、その結果、5カ月後の分解率は56〜66%に達し、毒性も四分の一程度に減っていたという。しかし、菌は6カ月目に入ると弱りだしたという。
キノコのダイオキシン分解能力は80年代後半から知られるようになり、90年代初めから大学などの研究機関で実験が繰り返されてきた。ところが多くは培養した菌を使う手法で、巨大な培養施設が必要となりコスト高が課題になっていた。しかし今回は、収穫した後に残る下部の菌床の培地、つまりもともとたい肥などにしか使い道のなかった培地に着眼し、ブナシメジを収穫した後の使用済み培地そのものに分解能力があることを明らかにしたもので、近く農地での実証実験に着手するという。
■不要になったシイタケの菌床を加圧・加熱で汚染土壌の無害化実証
人体に悪影響を及ぼす有機塩素系農薬のDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)に汚染された土壌に、不要になったシイタケの菌床を粉砕して交ぜ、加圧・加熱することで土壌を無害化、固形化することに、高知大教育学部の蒲生啓司助教授(分離化学)が成功した。
同じ有機塩素系化合物で、猛毒のダイオキシン類やPCB(ポリ塩化ビフェニール)などにも応用できれば、汚染土壌の処理方法の一つとして注目される。
シイタケの菌糸には、難分解性の有機塩素系化合物を分解する働きがあることが最近の研究で明らかになっている。ところが、分解できる濃度に限界があり、しかも相当な日数を要するなどの欠点があったため、「水熱ホットプレス法」と呼ばれる水分を含む物質を加熱・加圧して化学反応させる手法で、菌糸による分解を加速させることを試みた。
その結果、1平方センチ当たり780キロの圧力をかけ、温度を60度にすると、わずか20時間で分解率が85%程度に達した。時間をかけるとさらに分解が進み、無害化した。
菌糸は収穫後の菌床にも一定残っているため、実際に県内で栽培に用いられたものを収穫後に利用した。砂状に粉砕して土壌に交ぜ、DDT代謝物のDDE(ジクロロジフェニルジクロロエチレン)を1グラム中、0・0025ミリグラムになるよう含ませた。この試料を使用し、水熱ホットプレス法で圧力や温度をかけると、DDTが分解し無害化した。もう一つの代謝物のDDD(ジクロロジフェニルジクロロエタン)も同様の結果になった。
水熱ホットプレス法では物質が固形化するため土壌の場合も、体積が5分の1〜10分の1程度まで縮小する。菌床の代わりに、炭酸カルシウムやシリカゲルなどの無機材料を用いても同様の効果が得られるという。
蒲生助教授は「この手法なら、汚染された土壌を短時間で無害化、縮小化できる。DDEだけでなく、ダイオキシン類やPCBなどの有害物質にも応用できるはずだ。今後、なぜ水熱ホットプレス法で分解が加速されるのかを解明していきたい」と話している。
■カワラタケなどの菌糸からでる酵素で毒ガスを分解、無害化実証
菌糸のパワーが次々と表面化するなか、九州大学農学部の割石博之助教授らの研究グループは実験で、化学兵器として使用された毒ガスのイペリットをキノコの酵素で分解して無害化するのに成功した。
実験ではカワラタケを用い、かさが開く前の菌糸状の段階で培養液にした。この培養液に毒ガス兵器と同じ濃度のイペリットを入れると、菌糸から分泌される酵素の作用でイペリットの成分である硫黄と有機塩素が分離され、約30分後には無毒になり、さらに5時間後には、分解が進んで水や二酸化炭素などの物質に変った。
イペリットは別名をマスタードガスともいい、第一次世界大戦でドイツ軍が使用。旧日本軍も中国で使用し、そのまま放置されている。化学兵器として世界で最も大量に製造され、その処分が国際的な問題になっていることから、またひとつキノコの酵素が持つ分解能力が注目されそうだ。
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