島岡早苗著
今日が今日であるうちに

●本の説明●

 この本は、中学生活の2年間を体の不調をはじめ様々な要因で不登校(登校拒否)の日々を送った15歳の少女が、自分の心のうちを自分の言葉と文体で綴ったものです。
 著者の島岡早苗さんは、不登校に陥りながらも、親友の支えや先生たちとの関わりの中で少しずつ緊張や不安などを克服し、中学校の卒業式に出席。その後、高校に進みましたが、晴れて復帰して徐々に人生の楽しさを感じ始めようとしている初夏のある日、通学途中、歩道に突っ込んで来た車にはねられて、わずか15年の人生の幕をおろしてしまいました。

 事故死の後、母親が彼女の部屋に残されていたものの中から、便箋や大学ノートに鉛筆で綴られていた詩をはじめとする多くの文章を見つけ出します。その文章の数々をまとめたものがこの本です。

 不登校に加えてほとんど部屋から出ずに、自己の空間にとどまるという閉鎖的な状況でありながらも、真剣に自己と向き合いながら、みずみずしい感性で綴った詩(うた)の数々と未完の小説の一篇には、重さと同時に不思議と爽やかさが溢れています。

父親の島岡康年さん(45歳)と母親の和子さん(44歳)は言います。「この本を通して、不登校の子どもたちが家の中に引きこもっていても、精一杯考え、悩み、こころと体を癒しながら、少しずつ立ち直ろうとしていることをくみとって欲しい」と。

 この本は、私たちに登校拒否(不登校)のもつ意味とその重大さを教えてくれるばかりでなく、葛藤を繰り返しながらも最後にはありのままの自分を受容できるようになった少女の姿というものを通して、生命ある有機体の偉大さをまざまざと見せつけてくれているようです。


この本が発行になると、いまは亡き早苗さんの家に、沢山の電話や手紙がよせられました。

そして、早苗さんの地元紙・高知新聞の「声」の欄に、47歳の主婦のひとりはこの本を読んだ感想を送り、その文章が次のように掲載されました。

久々にいい本と出合いました

「今日が今日であるうちに」。著者・島岡早苗さんの本がペンフレンドから送られてきました。サッと目を通し、一気に読んでしまいました。久しぶりにいい本との出合いです。(中略)「立ち直ろうとしているところをくみとって」というこの本を読めば、不登校の子供を持つお母さんたちも、きっと乗り越えられると思います。そして早苗さんのように、今の自分を文章や詩に書いて残しておくといいと思います。書くことの大切さを学びました。

 この本のすごさは、中身も濃いのですが、仲良しだったペンフレンドからの手紙が(そのままの形で)収録されていることです。便箋三枚にしっかりした文が書かれています。しゃべるように、話をするように書かれている手紙、いいですね。最後の「じゃあバイバイ」も好き。
 早苗さんは、いい先生と親友に恵まれて、きっと幸せだったことでしょう。


早苗さんの詩の一部を以下に紹介します。


昨日と 今日と 明日について

考えてみたんだ

思ったんだけど 当然それは

過去と 現在と 未来のことだよね

それと もう一つ

昨日は もう二度と還らない日

今日は 何かできるかもしれない日

それから

明日は何でもできる日だと思うんだ

でも永遠に明日が来るのを待っていたら

いつのまにか おばあちゃんになってた

なんていうのは 嫌だから

今日が今日であるうちに何かしなきゃ!

なあんて思ったりもして

たまーに明日イヤな事がある時

明日にならなきゃいいのに って思うよね

それはみんな同じだと思う

でもそう思うのは 

明日という日が来るのをみんな分かっているから

もし

来ないと知っていたら

そんな気持ちなんてあるわけないし

それどころか 今日したい事が山ほど できちゃうもんね

ひょっとしたら

明日 交通事故で死ぬかもしれないのに

明日の事は分からないから

でも、明日が来るのを知っているから 

明日を待っているんだ みんな

まあ 人それぞれに違うだろうけど

私はそう思うんだ

バアさんが

新聞持って来て言った

「これ見て、こんなに偉い人もいる」

何が言いたいんだ

この人みたいになれってのか?

ふざけんな

あたしは この人じゃないんだ

一緒じゃないんだよ

なんで

お前らは そういう事しか

考えてないんだ?

バッカみてえ

その紙切れは やぶってゴミ箱へぶち込んだ



けど やっぱ

考え直した

それだけじゃ

治まんねえから

火いつけて燃やしてやったよ


糞食らえだ!

なぜ、 そう思う? どうして、そう思う

答えられぬか?  お前の頭はまやかしか

これ、  どこを見ておる

形ばかりのものなど……所詮……

まやかしにすぎぬ



あたしが、いつ答えられないと云った?


すがたのないものなんか 空想にすぎない

空想にすぎない いくら想っても 想っても

想っても 想っても  仕方ない

悲しくて泣いて 死のうと思い 空想の世界に紛れ込み

……自分を勇者のように見立ても あたしは

惨めな脇役にすぎない

みんな空想と現実を知っている

いくら逃げても逃げ切れない!

後から 後から そう

時間のように押し寄せてくる

あたしを喰らいつくそうとしている化け物のように!



仕方ない、  か………

ノートとシャーペンを持って 私の場所へ行こう

急がないと日が暮れる

近くの川の 川へ下りる階段、上から4段 左から2つ目が私の場所

今日はマーブルチョコを持って来たんだよ 

なんて1人で言って ポンとふたを開け 3つ、4つ口に放りこむ。

早く書かなきゃ、

それを食べながら ノートを広げる私

夕日が 名残惜しそうに 山の間から わずかな光をにじませている。

シャーペンを手に持って 

ノートに走り書きのような文字を書けるだけ書く。


もう大分暗くなったな、帰ってから書き直さないと…

そんな事を考えながら、手早くシャーペンを胸ポケットに入れ 
ノートをパンと閉じ ふっと空を見上げたら、

今日は東を向いてる月が、そろそろ帰ったら? とでもいうように 
横目で ちろりと私を見下ろした。

帰ろっと そう言いながら立ち上がる。

もうすぐ冬の近い空気が肌に冷たい

もう1回 口へ マーブルチョコを放りこんで かけ出す私

 自分(わたし)の場所

 必ずみんな1人に1つはあるはずだから

 探してみるのも いいかもしれない

 自分だけの…

 自分の場所。


戻る