改正JAS法と「有機マーク」表示

有機農産物の国際基準

■改正JAS法施行
 遺伝子組み換え食品の表示や有機農産物加工食品の認定・表示、生鮮食品の原産国表示の義務化などを盛り込んだ「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(改正JAS法)が2000年6月10日、施行され、すべての生鮮食品に対する原産地・原産国表示、農産物の有機認証表示、精米内容表示、遺伝子組み換え農産物を使用した加工食品の表示義務なども2001年4月からスタートした。違反した業者には、業者・企業名の公表や最大50万円の罰金が科せられる。

 消費者の動向が冷ややかなのに反比例して、流通や小売の段階では、なかなかのあわてぶりも表面化した表示制度。

 もとはといえば、「偽表示」や「デタラメ表示」など、これまでの「生産」や「流通」や「小売」に対する「不信感」に裏打ちされた表示の義務化制度という性格が強く、義務化されたとはいえ、「これからも丸抱えで表示を信用する者はいない」というのが偽らざる現状だ。

生鮮食品における原産地・原産国表示
 方法は品目ごとに若干異なる。野菜や果物などは、国産品の場合は「都道府県名」を表示、輸入品の場合は「輸出国名」を表示。畜産物では、国産品は「国産」表示、輸入品は「輸出国名」を表示。水産物では、国産品で捕れた水域を特定しにくい場合は水揚げ港や港のある都道府県名を認めるが、原則は「捕れた水域」を表示、輸入品は魚が捕れた国や漁船が所属する国名を表示。また、養殖したものは「養殖」などの表示が必要。

「有機マーク」表示
 
「有機農産物」として表示できるものは、日本のガイドラインの大枠では、化学農薬、化学肥料および化学土壌改良材を使用しないで栽培された農産物、および必要最小限の使用が認められる化学資材を使用する栽培により生産された農産物で、化学資材の使用を中止してから3年以上を経過し、堆肥等による土づくりを行なったほ場で収穫されたもの。
 農水省食品流通局は2000年3月6日、1999年7月に成立した「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(改正JAS法)に基づいて表示する有機農産物や有機農産物加工食品の「有機JASマーク」を下図に決定、「流通および小売」の現場では、検査認証を受けた有機農産物・食品であるか否かがこのマークにより判断される。

必要最小限の使用が認められる化学資材とは
無機硫黄剤、無機銅剤、フェロモン剤等の作物あるいは、ほ場に直接施されない農薬。
購入時に種子・種苗にあらかじめ化学処理されたもので、無処理の種子・種苗が入手が困難な場合に限る。
作物の成長に不可欠な微量要素を補給する肥料。
天然の有用鉱物資材、植物、動物及びそれらから摘出、抽出又は調製した天然物質で原材料が明らかなもの。
病害虫防除等農薬としての目的で使用する場合は、農薬取締法に基づき登録されたものに限り、その使用は当該登録の範囲内に限定。

 このほか、稲作については、有機米表示の条件に「河川からの直接取水、井戸水利用、沼地からの取水」などが求められ、上流の水田を経由した用水を直接、下流の水田で取り入れた場合などは、有機表示できなくなる。ただし、取水の際に農薬や化学肥料が入らない設備を施している場合は認められる。

 また、この有機表示基準は、一般市場流通の農産品などだけではなく、「産直品」や「産地との提携流通品」も例外ではなく、全てが対象。
 改正JAS法に基づき、有機農産物の任意表示が原則、禁止され、第三者機関の認証を得たものだけに「有機」の表示販売が認められる。

 有機JASマーク表示の農産物は、「無害」が証明された肥料・土壌改良剤や農薬を使って栽培したもので、その農産物を食べておけば、健康傷害が出る可能性が極めて少ない、というものではなく、有機JAS表示の有機農産物として「必要最小限の使用が認められる化学資材」とされる規格のなかには、殺菌剤のボルドー剤(液)殺虫剤のデリス乳剤など、ヒトに対する毒性あるいは発ガン性環境汚染物質もあることから、有機JASマーク表示の農産物だかといって、安全・安心だとは限らない、ということだけは最低限、認識しておく必要はありそうだ。

■有機認証表示制度での懸念と動向

 新たな目安の誕生で、買う側にとっては、今後はウソの「有機」表示が減るため、これまでよりも店頭での選択が目先の判断ではラクになる。また、有機農産物の流通業者や組織や出荷先のいい加減さも、多少なりは改まる。しかし、これは基本的に「有機の表示が曖昧で、いまいち信用できない」という、これまでの「不信感」に裏打ちされた「生産」や「流通」や「小売」の領域において、「買う側が目安になる」という判断材料のひとつ。
 実際には、認証を行なう第三者機関も有機農産物の流通業者や組織や出荷先が設立したり、ベンチャー的指向で設立するケースも増加するため、認証そのものの信頼性が問題視されるケースも出て来そうで、有機認証の曖昧さは拭い切れそうにないのが実情。
 また、言うまでもなく、この「表示」のみが「生産者」と「消費者」との関係において、絶対的なものというものではなく、有機というものの捉え方を、正確に定義付けているものでもない。

 むしろ、表示に依存し過ぎると、それだけがひとり歩きを始めて、「有機」=「安全」という記号化されたモノの流れだけが氾濫し、無個性でかつ、特徴のない流通が発生する可能性が高くなる。
 また、それと共に、生産者が有機認証を受けるには、かなりの経費と手間などがかかるために、認証を受けるのを敬遠し、表示制度に抵触しない範囲で表示販売を工夫するところも多く出現しそうで、今後の混迷が早くも予測されている。

 認証機関の信頼度のほかにこれから懸念されているものとして、商社系を含む大手流通業者の有機農産物生産者の「囲い込み」による農業現場の荒廃や、国際基準に準じた海外からの有機農産物の増加による日本の農業現場のダメージなどが指摘されている。

 その反面、大量流通の中で占める割合は依然として少ないものの、既に「生産者」と「消費者」の間で揺るぎのない信頼が成立していたり、あるいは永年の付き合いを通じて親戚づきあいにも似た関係が構築されている間柄など、個人の努力で確立されている「信頼のおける産直」においては、今後も「ガイドライン」や「表示」や「基準」、あるいは大量流通業者などの「囲い込み現象」にふり回されることはなく、これらとは無関係に「顔の見える関係」での、声が聞けて文句も言えるざっくばらんな産直が維持され続けるのは、いうまでもない。

 しかし、現実には今後、新規の顧客確保や小売店取引において、認証がないと不利になる、あるいは支障をきたすなどの弊害も出かねない。このため、古くから有機農業運動を通して生産者と消費者の関係を構築してきた全国各地の生産者グループや団体などのなかには、新たに認証団体を設立して法人格を取得し、認証の中立性を保ちつつ、生産者が負担する検査認証費用の軽減を図る取り組みに乗り出すところもボチボチ出始めた。(※有機農産物生産者認定機関用の「業務マニュアル」は日本農林規格協会のホームページにある)。

登録認定機関の申請は改正JAS法施行と同時に受け付けが開始され、登録認定機関としての認定がはじまっている。2001年3月時点で38の認定機関が登録を済ませている。

 また、改正JAS法施行をひとつの契機として、安全性という観点の有機認証検査および認証表示にとどまらず、これまで以上に、個々の農産物の食味や栄養価などを検査計測したデータ表示も流通・小売・消費の現場から求められる傾向にあることから、農産物の素性=DNA鑑定を含め、それらを検査計測、認証する機関のニーズも高まりそうで、これらをめぐる新ビジネスも拡大しそうだ。

■有機農産物の国際基準
 国連食糧農業機関(FAO)で開催された世界保険機関(WHO)合同の食品規格委員会(コーディック委員会・165カ国加盟)総会は1999年7月3日、有機農産物に関する国際基準を決めた。

 有機農産物の国際基準は「遺伝子組み換え農産物および放射線照射農産物は有機農産物とは認めない」ことを大前提にした上でおよそ次のような基準を設けた。
 有機農産物の基本的条件は、種まき前2年間(果物など草地栽培以外のものは収穫前3年間)、定めた許可資材以外の農薬や肥料を使用しない栽培であること。
 有機加工食品の基本条件は、原料の95%以上が有機農産物であること。
 有機農産物として表示販売する基本条件は、検査認証制度を導入し、認証機関が認めたものに限ること。
 各国の有機農産物の国内基準は、合理的理由がない限り、国際基準に沿うこと。

 有機畜産物に関しては意見がまとまらず、輸入有機飼料などの問題を整理し、2000年5月10日、カナダで開かれた食品表示部会で方針が出された。
 基本的には、クローン牛などの受精卵移植技術やホルモンを利用した繁殖技術を用いたものには有機表示を認めない。また、使用される飼料も、最終的には原則として100%有機飼料に限りたい意向だが、各国の飼料供給事情などにより、当面は、牛など反すう畜産物の飼料は乾物重量ベースで最低85%、豚など非反すう畜産物は最低80%の有機飼料を与えたものでなければ有機表示を認めない、とする方針だ。衛生管理面では、病気でない時に家畜に動物用医薬品を使用することは禁止する。
 2001年に総会で正式決定する。
 また別途、遺伝子組み換え農作物や食品の安全評価に関する国際規格については、4年以内に策定する遺伝子工学臨時部会で検討、正式決定する模様。

※遺伝子組み換え食品に関するこれまでの動向は「迷走の遺伝子組み換え食品表示問題、一歩前進?」を参照のこと。

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