迷走の遺伝子組み換え食品表示問題、一歩前進?
■遺伝子組み換え技術を使った農作物、加工食品の表示法について検討していた農水省の「食品表示問題懇談会遺伝子組み換え食品部会」は1999年8月10日、最終報告をまとめ、「遺伝子組み換え」と表示が義務付けられるのは、遺伝子組み換えの大豆、トウモロコシ、ジャガイモなどを使用したことが明らかな食品で、豆腐、みそ、コーンスナック菓子など、遺伝子組み換え食品であることが検証可能な30品目に限定した。
しょうゆ、コーン油など加工段階で遺伝子が分解され、検証不能な食品は表示不要とした。遺伝子組み換え作物とそうでない作物が分別されて流通していないため、原材料に混じっている可能性がある食品は「不分別」との表示を義務化するが、現実には分別されず輸入されているのがほとんどで「不分別」表示が多くなる。
また、国産大豆など遺伝子組み換えをしていない原料を使った食品は「遺伝子組み換えでない」などと表示ができるが、米や小麦など現段階で遺伝子組み換え作物が存在していない食品については「組み換えでない」などと表示することは、消費者に誤解を与えることなどから禁止する。「遺伝子組み換えではありません」などと表示できるのは、国内に存在する遺伝子組み換え農産物の「大豆、トウモロコシ、バレイショ、ナタネ、綿の実」のみで、それ以外の農産物については、農水省は「国内で栽培される小麦などの作物にはそもそも遺伝子組み換え品種がない」として、任意でも非組み換え作物表示は禁じる。
農水省は2001年4月からの実施を目指す。表示が正確かどうか確認するため、製造業者が原材料の納入業者の書類などで流通経路をチェックするよう、公的機関がDNAやたんぱく質を科学的な分析法で検査。日本農林規格(JAS)の食品表示基準を改定して、2000年中には制度を導入したいとする。
消費者団体などからは、表示姿勢の前進を評価する一方で、「完全に義務化せず任意表示の形になるものが残るなら意味は薄れる」「製造過程で遺伝子が分解されたりする製品についても、組み換え作物と非組み換え作物について作付けから食品加工に至るまで分別すれば原材料からはほぼ100%検出可能なため、判別可能で表示も可能」と指摘する声が出ていたが、取り入れられなかった。
これまで農水省は、基本的には「表示の義務なし」の姿勢で、表示を求める声には一貫して逃げ腰で、表示を前提にした議論は棚上げにしてきた。しかし、1998年から1999年にかけ、「遺伝子組み換えしたジャガイモをネズミに食べさせたところ免疫機能などが低下した」「害虫に強くなるよう遺伝子を組み換えたトウモロコシの花粉でチョウの幼虫が死ぬ」など、悪影響が懸念される研究結果が海外で相次いで出され、消費者から不安の声が出ていた。
また、遺伝子組み換え食品を巡っては、EU(欧州連合)が法律で表示を義務づけるなど、世界の動きが「表示」に大きくシフトし始め、食料輸入大国・日本の対応が注目されていた。今回、不十分ながら農水省が「一部表示」の路線を選択したことで、長く膠着状態にあった「表示問題」は、「とりあえず」と「曖昧さ」といういつもの「日本らしさ」を発揮して、一歩目を踏み出した。※有機農産物表示についての動向は「有機農産物の国際基準と改正JAS法と有機JASマーク表示」の記事を参照のこと。
■厚生省も方針をだす。
遺伝子組み換え食品の安全審査体制について、厚生省はガイドラインに基づき、開発メーカーなどが自主的に審査を受ける現行の仕組みを変更し、審査を法的に義務付けることを決めた。
組み換え食品に対して、あいまいだった安全審査の位置付けを明確にするもので、2001年4月には実施に踏み切る。
これまで同省の安全審査は、開発メーカーなどの申請に基づき、複数のチェック項目を定めたガイドラインに照らして、専門家が形式的に審査していた。しかし、任意の届け出制度になっているため、実際はザルの目から抜け落ちる制度だったことから、市民団体から「安全審査をパスしていない組み換え食品が海外から輸入され、流通しているのではないか」との指摘が出ていた。このため、万一流通していた場合、業者に回収などを求める法的根拠を明確にしておく必要性があると判断。安全性の確認を義務化し、未確認のものは流通禁止とすることを決めた。市場に出回った場合は、廃棄、回収、輸出国への積み戻し命令などの行政処分が行なわれる。故意に違反した業者には罰則が適用される(懲役1年以下または10万円以下の 罰金)。改正の食品衛生法に基づいて承認された食品には審査に合格した旨の表示を義務付ける。規格基準の改正では「食品が遺伝子組み換え技術によって得られた生物の全部または一部を含む場合」「同技術によって得られた生物を利用して食品を製造する場合」について、それぞれ厚生大臣が安全性確認したものでなければならないとの規定を追加する。
今後も多種多様な遺伝子組み換え技術の実用化が予想されることから、厚生省では、安全性審査も機動的に見直しができるよう、法律本体ではなく規格基準の改正とした。
また、表示については農水省が30品目について2001年4月から遺伝子組み換え表示を義務付ける予定になっていることから、厚生省は食品衛生法での公衆衛生上の観点から「安全審査表示」として別途行なう。
■農水省、流通業者向けに、非遺伝子組み換え大豆やトウモロコシに関しての流通表示規定を提示。
遺伝子組み換え食品の表示制度がスタートするのに伴ない農水省は1月28日、非遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシに関する「流通マニュアル」をまとめた。
「遺伝子組み換えではない」と表示する大豆やトウモロコシについての混入許容量の目安はEUなどが決めている「0・1%以下」より甘く、「5%以下」とすることを決めた。不当表示防止のために、輸入業者などが発行する「証明書」を最低2年間保存することなども定めた。また食品原料として輸入している大豆とトウモロコシについて、生産〜集荷〜輸送〜港での選別〜卸売〜加工製造〜販売などの各段階での管理方法やチェックポイント、管理内容の記録方法なども規定した。
生産段階では混入を防ぐため、種子証明書や種子番号で種子をチェック、集荷施設は非組み換え専用にして、組み換え農作物と兼用の場合は施設を洗浄するなどの管理を求める。また、輸送〜加工製造〜販売に至るまでは、分別流通を行なった旨を記載した「証明書」をそれぞれ発行し、次の段階の管理者に送付する。混入率5%を巡ってはこれまで、商社など流通サイドが「混入率をEU並の0・1%以下にすると、どこも非遺伝子組み換え大豆やトウモロコシの流通をやるところがなくなる」と主張、消費者運動団体などは「EU並の0・1%以下にしないと、厳しい規定のEUにはきちんと分別されたものが輸出され、甘い規定の日本にはいい加減な分別をしたものが輸出される、ということになり兼ねない」と主張していたが、農水省は結局、流通サイドの都合に沿った結論をだすこととなり、消費者サイドからは、今回の業界優先の決定に対して、「現状認識不足だ」という批判の声があがっている。
■EU、遺伝子組み換え食品のラベル表示義務付けを決める。
EU(欧州連合15カ国)の「食品委員会」は1999年10月21日、遺伝子組み換え比率が1%を超す作物を一種類でも含む食材や食品に関しては、販売する際に「ラベル表示を義務づける」という欧州委員会の提案を承認した。
1998年4月以降EUは、新規制の導入まで遺伝子組み換え作物の流通を認めず、表示基準の協議が続いていた。今回のラベル表示は新規制の柱で、欧州委は、原料調達や加工の過程でたまたま混入した遺伝子組み換え作物の現実的な許容範囲として1%の基準を設定。1%を超す作物を一種類でも含む食材や食品に関しては、販売する際に「遺伝子組み換え作物使用」のラベル表示を義務づける。
「遺伝子組み換え作物不使用」と表示できる基準は「0・1%以下」に規定された。また、イギリス政府は11月5日、遺伝子組み換え作物の商業栽培禁止措置を2002年まで3年間延長すると発表した。環境保護団体などが中止を求めている農場栽培試験は、同作物が環境に与える影響を調査するため継続実施することも併せて表明した。
■遺伝子組み換え作物、「種子」に関して「輸入拒否権」を認める国際取引ルールが誕生。
遺伝子組み換え作物に関する国際取引ルールが議論されていた「生物多様性条約特別締約国会合」で、2000年1月末、遺伝子組み換え作物の「種子」に関してのみ、輸入国が、それを輸出しようとする国に対して「輸入拒否権」が行使できるという内容の「バイオ安全議定書」が採択された。
EUなどは「食用、加工用、飼料用を問わず、すべての遺伝子組み換え作物そのものに対して輸入拒否できる」ようにすることを主張したが、アメリカなど遺伝子組み換え作物の輸出国の猛反対で、「遺伝子組み換え作物の種子」に関してのみ、「輸入拒否権」が行使できるという内容に落ち着いた。
拒否権を行使する際には「輸出国に通知をして同意を得る」という「事前同意」が必要だが、この議定は、WTOなど他の貿易協定には従属せず、独自に有効性をもつ、というもの。
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