世界最大のエネルギー供給国として君臨するロシアは今、アジア地域への天然ガスの輸出にも乗り出した。中心的な役割を果たすのが、ロシア国内初の液化天然ガス(LNG)プラントとしてサハリン島で稼働を開始した「サハリン2」だ。
液化天然ガスとは、天然に産出される化石燃料のメタンを主成分とする天然ガスを冷却して液体にしたもので、不純物が少ないため、同じ化石燃料の石油や石炭と比べて二酸化炭素の排出量が少なくクリーンなエネルギーとされる。
このLNGプラントは、年間生産能力が960万トンあるといわれ、過冷却ガスの世界需要の5%にあたる。「サハリン2」で精製されたLNGは、主に日本や韓国などに提供される。
ロシアは先ごろ、中国との間で20年にわたる石油供給契約に合意したばかりで、需要増加が著しいアジア地域への影響力増大に向け、エネルギー覇権を目指すロシアの新たなアプローチが開始された。
アジアのエネルギー市場におけるシェアは現在、約4%程度だが、これを2030年までに20〜30%に引き上げる計画を打ち立て、将来的には世界のLNG輸出のシェアを20〜25%まで獲得する目標を掲げる。
石油の輸出量ではサウジアラビアに次いで世界第2位のロシアは、欧州以外への地域に石油の輸出先の多様化も図っているが、ガスについても同様で、欧州の需要の約4分の1を供給するロシアは、アジアへの輸出拡大を開始する。
ロシアが資源外交を通してアジアへの影響力を高めるためには、ガス探査や生産量増大、インフラ整備などのハードルを越える必要があるが、こうしたコストは、先ごろプーチン首相が国際機関「ガス輸出国フォーラム」で「開発コストが上昇するので、安価での天然ガス供給時代は確実に終焉を迎えつつある」と表明したことからも分かるように、今後は資源の供給を受ける国と折半することになる、との見方が強い。
サハリンに続く大規模LNGプロジェクトは、バレンツ海のシュトックマン海底ガス田やロシア北部のヤマル半島、ロシア領北極圏だが、技能の高い技術者が不足しているという問題を抱えている。そこでロシアは将来的には、サハリン2で組んだロイヤル・ダッチ・シェルと日本の三菱商事や三井物産をはじめ、米エネルギーメジャーとの提携も検討する模様だ。
これまで資源の国家管理を進めてきたロシアだが、過去10年で初めての景気の後退局面に遭遇したことから、エネルギー分野で「孤立主義」を取り続けることが不可能になってきた。他国から「ロシアは資金の安全な避難先」としてもてはやされ、プーチンを筆頭に「向かうところ敵なし」の勢いは今のロシアにはない。ロシアとて、もはや世界各国と協業せざるを得ない時代を迎えている。
しかし、これもロシアにとっては好機だ。面倒な理屈や説明を抜きにして「新しい取り組み」姿勢が各国に受け入れられるラッキーな時でもある。対外的なことのみならず、ロシア圏でもウクライナやベラルーシの例をあげるまでもなく、ロシアの協力なしにはこれからの展望が語れない状況だ。「損得感情」と言ってしまえばそれまでだが、世界各国が「背に腹は代えられない」時代を迎えたのだから、今後の影響力行使に向けても、世界的な景気後退局面はロシアにとっては絶好の好機を与えられた「ワンチャンス」だと言えるのだろう。