農商工連携の政策誘導+農地法の抜本的改正で
叶うか、地域の新陳代謝。
最近、「農商工連携」という言葉が盛んに聞かれるようになってきた。
「産業間連携」は過去から現在に至るまで「営み」の世界では世の常だったが、昨年から実施されることになった「農商工連携」は、少し響きが違うようだ。
あくまでも民間レベルの創意工夫で乗り越えざるを得なかった取り組みが、2008年7月21日から施行された農商工等連携二法(農商工等連携促進法、企業立地促進法改正法)という政策で、取り組みそのものが保証され、政府のバックアップを受けることが可能になった。
その施策は「地域の基幹産業である農林水産業、商業、工業等の産業間での連携(農商工連携)を強化し、相乗効果を発揮することで地域活性化につなげる」ことを目的に、農水省、経産省がそれぞれ100億円程度、合計200億円以上の予算措置による支援も行なうというものだ。
言葉を代えれば、農林漁業者と中小企業者が、一次、二次、三次の産業の壁を越え、それぞれの経営資源を活用した連携によって、新しい商品・サービスの開発や販路開拓を行ない、農林漁業経営の改善や中小企業の経営の向上に繋げる取り組みを促進し、政府が予算措置による支援も行なう、というもので、農水省と経産省双方がリンクしあう施策は、既得権益を守ることだけに固執してきたこれまでの省庁の姿勢からすると画期的なことだ。常に施策を批判眼で見る癖のある輩にとっても、これは、ちょっと気になる動きに位置付く。
但し、省庁の垣根を本当の意味で越えることが出来ての話ではあるが。旧来のようにどちらがリーダーシップを取るか、等々、阿呆くさいメンツ争いに埋もれてしまうことがない、という前提での話に於いてのみ、この企画は見込みあるものになるのだろう。多分、無理かも知れないが。
福田内閣時代の「中小企業や農業の活力を引き出し、すべての人が成長を実感できる全員参加の経済」での施策に関連して、福田首相が当時、所信表明で以下のように述べていたことを思い出す。
我が国経済の活力を支えるのは中小企業の底力です。日本の強みである「つながり力」を更に強化し、地域経済の活力の復活と中小企業の生産性の向上を実現するため、地域連携拠点を全国に200から300か所整備します。この拠点が中心となって、ITを徹底して活用し、経験豊富な大企業の退職者や中小企業、農業、大学が相互に連携して、新たな商品やサービスを生み出す取組を支援します。また、中小企業の事業承継を円滑にするための税制措置の抜本見直しを行うこととしています。
製造業の技術や流通業のノウハウを農業に活用する「農商工連携」を強化するなど、地方の主要な産業である農林水産業の活力を高めます。意欲ある担い手を支援するとともに、農地の集積や有効利用を進める農地政策の改革の具体化を進めます。また、小規模・高齢の農家の方々が安心できるよう、集落営農を立ち上げやすくするなど、きめ細かな対応に努めてまいります。 |
これまでも地域づくりの取り組みで実施が模索されていたことだが、優秀な一次産品を生産して販売するだけでは、一定レベルからの伸びが期待できなかったのが現実だった。
地域の資源や農産物を生産・加工し、新たな付加価値製品を生み出す際には、工業との連携で技術革新、商業との連携で販路拡大、そうした創意と工夫が、問題を解決していくきっかけになることも既に分かっていたことだ。しかし、大きな後ろだてがない限りは「有効に具体化できない」という壁に突き当たるばかりだった。
しかし、これからはどうやら違うようだ。
やり方次第では、地域の産業界や工業高校、大学等とも連携し、地域の特徴を踏まえた課題の解決に貢献する人材を輩出することも可能だし、製品開発やマーケティングなどのノウハウをもつ大企業の社員あるいは退職者等から数年間に渡り集中指導を受けることも出来れば、異分野の事業者と連携して新事業活動を行なうことも可能だ。
法律や制度に裏打ちされた農商工連携(促進法施行)により、取り組み側の「やる気」や「アイディア」次第で、これまでよりもさらに踏み込んだ付加価値の高い地域商品の創出、供給体制の強化、マーケットを意識した「攻め」の経営展開等々が、誰に邪魔されることなく可能になってきた。
勿論、これらの取り組みに対しては、従来型のように「無条件に補助金を出す」といったものではなく、融資の円滑化と投資した新設備などの特別償却を認めるなどの税制優遇が中心だ。
マーケティング会社やコンサルタント会社にうまく踊らされては元も子もない、という重要な注意点もあるにはあるが、「これまでのようにまんまと餌食にはならない」という認識さえあれば、一次産業を二次・三次産業の技術等を取り入れてより発展させようとするこの施策は久しぶりに面白い。
加えて今年、農地政策の軸を「所有」から「利用」へと大幅に転換し、優良農地を確保したうえで、農業の大規模化と新規参入を促すために農地法が改正され、貸借による企業の農業参入が原則として自由化される。
「農商工連携」と「農地法改正」は、疲弊した現代にあって、極めて有効な政策になるのかも知れない。
農業者を中心とする農業生産法人への企業の出資制限について、一社当たり10%以下とする現行制限を撤廃し、最大25%以下(農商工連携事業者の場合は50%未満)に引き上げる。
適正に利用しなければ契約を解除する条件付きで、個人、法人を問わず誰でも農地を貸借できるようにし、意欲的な企業や個人の農業参入を促す。農協が農業に直接参入することも認める。
企業が借りられる農地を、市町村が指定した放棄地などに限る現行規制を撤廃、優良な農地も利用できる。但し、農地を借りる企業は、経営陣の1人以上が農業に常に従事する義務を負う。借地期間の制限を20年から50年に延長する。農地を違反転用した企業への罰金は、最高300万円から1億円に引き上げる。
年内に施行の見通し。
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日本のものづくりは、大きな変革期に差し掛かっているのは周知の事実だ。自動車産業の凋落振りを例に出すまでもなく、産業構造の実態はかなり前から変化していた。農商工連携は、そうした日本のものづくりの一つの方向性を考える上でも、とても興味深い動きになりそうだ。
多分、旧来型の農協や商工会が乗り遅れるのは必至だろう。農協や商工会には、哀しいかな、これらに対応するスピード感や柔軟さがないのが実情だ。それだからこそ、この施策はこれからの時代に向けて有効でもある。
「旧態依然としていては何も始まらない。この波に乗らない手はない」と敏感に反応した地域では様々な試行錯誤が始まっている。
しかし、現実はまだまだ「どうみてもマーケティング会社やコンサルタント会社にうまく踊らされてしまっているケースや、思い入れが強すぎて“ここまでやっているのだから売れるはず”というようなケースが多く見られる」のが実情のようだし、ノスタルジーだけで農業や商業を見る人が多いのも否めないのが現実だ。要は「社会性がない」ということだ。
だが、この代表的な二つの硬直した弊害をクリアーすれば、地域の活性化は、意外と面白い取り組みの中で、自然発生的に成立し、意外な人材が存在していることを地域の中で発見するのかも知れない。われわれはすべてに於いて、まだまだ出会いが少ない。
低成長時代に歴史的な不況が加わるなど、経済構造の大きな変化の中で、私たちは疲れ気味であっても、否応なくその先を見て、考え、行動しつづけなくていけない義務がある。勿論、常に「ピーク時の発想」を維持する必要はない。これまでの痛い失敗も含めて経験に裏打ちされた取り組みを真摯に実践することは必要だ。その新しいきっかけに農商工連携は意外にも重要なキーワードになっている。
「農産物の加工工場」と言えばカゴメ、キユーピーなどが思い浮かぶが、企業の生産管理技術を野菜生産に活かし、量産化しようとする「野菜工場」の新規ビジネスが広がり始めている。
スチールメーカーのJFE、工学メーカーのオリンパスをはじめ、大成建設や昭和電工などのほか、様々な中小中堅企業等が成長分野ととらえて参入する動きが拡大傾向にある。
単なる野菜生産だと農家が取り組む施設園芸=ハウスによる野菜生産=と同じだが、企業が持つ生産管理技術=建設技術、光や温度・湿度等の環境制御技術、改良技術等々=を駆使してシステム化し、生産技術を確立して量産化につなげる、というものだ。
近年のそうした動向をとらえて、三菱総合研究所は「植物工場ビジネスへの参入と新しいマーケットの拡大のために」という趣旨で「植物工場研究会」を設立し、農商工連携の道を探りはじめた。
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【関連リンク】農林水産省/中小企業庁/経済産業省予算関連/農商工連携中小企業ビジネス支援/農商工連携88選/三菱総合研究所「植物工場研究会」/
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