戦後の農業政策を「戦後処理下の農業政策」「高度経済成長期の農業政策」「経済低成長期の農業政策」「新時代に向けての農業政策」と時代の流れの中で検証。


戦後処理下の農業政策 混乱からの脱出-1940年代の頃


命題は民主化/敗戦処理

 1945(昭和20)年8月15日、終戦を迎えた日本は、復興に向けて全精力をなげうって再建を試みた。ものすごいインフレと失業と食糧不足。この深刻な社会不安を払拭し経済再建の一歩を印すのが、時の政府の役割だった。その役割の優先順位は、まず食糧の確保におかれた。国民の胃袋を最低限保証し、人力によって経済社会での全体的な生産性を上げていくというものだ。

 一方、GHQ主導の占領軍は、アメリカの極東政策が色濃く反映された占領政策を打ち出し、その基本を軍国主義の除去と民主化の促進においた。

 軍国主義の基盤にもなった財閥は、経済の民主化を進める意味でも弊害とされて解体。それと同時に地主・小作制度が日本全体の民主化を妨げるものだとして農地改革も実施された。

 復興政策と民主化政策は、農業協同組合法や労働組合法の制定・婦人参政権の実現・圧制的諸制度の廃止など、次々と発せられるGHQ指令で基盤整備され、主権在民・戦争の永久放棄・基本的人権尊重などが盛り込まれた日本国憲法の公布(1946年11月3日)に至った。

食糧確保と増産/再建復興型農政の姿

 農地解放により自作農化された農民は、水を得た魚の如く農業の大地に立って生産意欲を高め、増産に汗を流していった。しかし、食糧増産・確保には限界があった。農地の所有関係を改め、いくら生産意欲を高揚させても、国全体の農業者数と農地面積そのものには変わりがないから、食糧増産にも限界があるという現実と、政府の思いどうりには食糧が集まらないという現実である。

 この現実に対しての解決策を講じることから、戦後処理の再建復興型農政は具体的に開始されることになる。

 政府は大枠として三つの解決策を発想、農地が足らないのならば農地を拡大することを、農業者数に限りがあるのならば農業形態の種類を増やすことを、思いどおりに食糧確保できないのならば強引に管理・確保することを考えた。そして、農地拡大策には開拓・干拓という手法が用いられ、農業形態の種類増加策には有畜農業の奨励という手法が用いられ、食糧確保には食糧管理法を盾にした強権発動での強制供出という手法が用いられていった。

意図と現実とのギャップ/生活感なき強権発動VS現実の選択

 だが、これをもってしても重要な眼目としての食糧増産・確保は、農政の意図どおりには達成できなかった。

 供出を強制しても、基本的な低米価政策と慢性的な食糧不足は、ヤミ価格の高騰を招くばかりで、1949(昭和24)年で玄米10kg当たり生産者米価245円、消費者米価405円に対し、ヤミ米価1000円という状況で、農家は供出の網をぬうようにしてヤミに走る。その結果、強権発動型の食糧強制供出率は45%内外にとどまっていった。また有畜農業奨励も、水田裏作や田畑輪換で飼料作物の導入が図られたとしても、それで飼える家畜は数頭にすぎず、しかも年中無休状態になることから、ヤミに走り、利益を上げ始めている農家にとっては魅力を感じるものでは到底なかったので、有畜農業奨励は絵にかいた餅に終わる。そして農地拡大型の開拓も、1945年11月に「緊急開拓事業実施」をぶち上げたものの、北海道(定着率34%)を代表とする過酷な条件下での開拓入植に対しては、掛け声ほどには成果が上がらなかった。

 しかし、現実の動向がどうであれ、農政においての食糧増産は国家命題でもある。これを達成せずにはすまされない。そこで次々と農業分野に各種奨励金が投入され、1953(昭和28)年には財政投入額は336億円に達していた。

食糧自給をあっさり放棄/アメリカ主導で開始された戦後農政

 そんな折の1954(昭和29)年、アメリカは条件案付きで日本に経済社会構築のための防衛上の再軍備実施と食糧増産の打ち切りを要求、財政投入型の食糧増産をやめて日本はアメリカの余剰農産物を円で買う、そのかわりにアメリカは受け取ったその円を日本への防衛投資や日本製品購入に当てるという内容のMSA協定を提示。それを日本政府は、アメリカ側の新しい援助だとして飛び付き、即座にMSA協定を締結すると、日本の農政も、これまでの方針を大転換、米麦を中心とした増産対策(いわば食糧自給)の放棄と小農保護政策の中止を決めていく。

 こうして戦後農政は、意図どおりには達成できないという厳しくも当たり前の現実と、自前の方向性は描き得ないで進んでいくというところから開始される。

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1996年小社刊行の『農の方位を探る』から抜粋/転載厳禁
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