揺れる原発政策

【このバックナンバーページの項目・目次】●原発政策の見直しが決まったものの、原発推進のために用意した新法が成立稼働中の原発、30年稼働から60年稼働に使用期間を延長使用済み核燃料の中間貯蔵施設づくり核燃料再処理工場操業延期の憂鬱プルサーマル用MOX燃料の輸送原発、プルサーマルの時代に高レベル放射性廃棄物の搬入高レベル放射性廃棄物の最終処分原子力史上最悪の「臨界事故」安全対策組織の実態水道水の放射線測定風力発電の事業化電力の小売り自由化の動向国民投票で原発の全廃を決めているスウェーデンの動向脱原発を掲げるドイツの動向ロシア、外国相手に使用済み核燃料の最終貯蔵ビジネスを決めるチェルノブイリ原発事故処理による被ばく作業員、ロシア国内で3万人以上が死亡フィンランド国会、原発の使用済み核燃料から生じる高レベル放射性廃棄物最終処分場の建設を承認アメリカのブッシュ政権、原発推進のエネルギー政策に転換?

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●原発政策の見直しが決まったものの、原発推進のために用意した新法が成立●

 世界で運転中の原発が「基数・総出力」ともに減少傾向に向かうなか、日本は「さらなる増設」に向けて動き続けてきたが、2010年度までに16〜20基の原発を新たに建設するとした国の原発立地計画は引き下げを余儀なくされた。

 日本の原発は1966年、茨城県東海村に最初の原発が出来て以来、その依存度を増した。2010年度までの発電量比率目標を、原発45%、火力42%に置いていたが、国民の原発に対する不信感が深まり、電力各社の計画でも2010年度までに運転開始を予定していた原発は当初20基だったものが現状では13基と、7基の減になり、今後ますます新規立地や増設が難しくなってきたことから、見直しを決めた。

 そんな中で、利権を筆頭にした選択基準と産業界の利害判断に左右された法案、原発施設のある地域のインフラ整備などを図る「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法案」が2000年12月1日の臨時国会最終日に駆け込み成立した。

 これは、電源3法による従来の交付金に加えて、新たな財政的援助を可能にするというもので、原発への「逆風」が強まったことから、旧態依然の「目の前にカネをぶらさげて、食いつかせて従わせる」という手法の拡大版として措置されたものだ。

 原発立地の地元自治体には、すでに電源開発促進税法など、いわゆる電源3法に基づいて年間約1000億円の交付金が計上されている。しかし、支給額や期間が限られていることから、地元自治体からは、新たな振興策を要望する声が上がっていた。このことから、特別措置法により、原発関連施設の周辺地域で補助金の上乗せをして原発の増設や高速増殖炉の稼働、プルサーマル計画への移行の同意などを図るのを狙いとする。

 逆風の原発推進に対する風向きを変えるため、これまで政府および自民党は、原発立地を受け入れた市町村に対しては、公共事業の負担金を国が肩代りするなど、優遇処置を施す新法「原発等立地地域振興特別措置法」の成立を目指して関係省庁と調整を進めていた。

 現在、原発や火力発電所などの電源立地地域には、電源開発促進対策特別会計の交付金があるが、原発に対象を絞り、公共事業で国が負担する分を上乗せする。

 原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法では、立地が確実な市町村が対象で、原発のある市町村および結びつきが強い周辺市町村に対し「基幹的な道路、鉄道、港湾、空港など交通や通信施設の整備」「農林水産業や商工業、観光などの振興策」「生活環境の整備や高齢者福祉の増進」などの振興計画を作成し、計画に盛り込まれた公共事業や施設整備には、国の負担を他の地域よりも上乗せする。そのほか、地方単独事業の場合は地方債発行で賄い自治省が元利償還などで優遇し、地域内の製造業者には、事業税や固定資産税などに対する優遇措置も行なう、というものだ。

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●稼働中の原発、30年稼働から60年稼働に使用期間を延長●

 耐用年数は長くて30年とされていた原発を政府は、1基60年の長期運転を認めることになる電力各社から出された保全計画を容認した。

 これは、電力各社から出された原発の60年運転を仮定した機器全体の技術評価を審査した結果、安全が確保されていると判断した、というもので、当面は、運転開始から30年近くがたつ福島第一原発1号機(東京電力)、美浜原発1号機(関西電力)、敦賀原発1号機(日本原子力発電)に対して、今後の保守点検など保全計画全体を妥当だと認め、寿命のきた原発をさらに10年間、稼働させるというものだ。

 新規立地や増設が反対運動などで困難、廃炉にする場合の費用や安全対策は極めてコスト高という側面も踏まえた上での判断だが、既存の原発が今後どんどん老朽化して寿命を迎えるその対応策として、老朽化原発の延命を決め、60年稼働への道を選択した。

 また、政府の地球温暖化対策の基本方針にも「原発の推進」が盛り込まれて閣議決定された。これは、中央環境審議会の地球温暖化対策に関する基本方針小委員会が「基本方針」として、これまで「原発の推進」の明記を避けていたことに電気事業連合会が不満を持ち、電力各社や関係業界に中央環境審議会に「原発の推進を明記すべき」という意見を送付するよう呼びかけ、寄せられた業界の意見に同審議会が屈した形で明記することになったものだ。
 ちなみにその「組織票」にも匹敵する「意見」を「意見募集として寄せられた国民の意見」として中央環境審議会が示した数は「原発の推進を明記すべき」とする意見が1036件中899件(87%)だった。
 しかし、電力業界の圧力に屈した形での「原発推進」の明記では説得力に欠ける。このため、「国民的議論を行ない、国民の理解を得つつ進める」という表現を盛り込み、中央環境審議会の企画政策部会が、行政や企業、国民が取り組むべき地球温暖化対策の基本方針としてまとめた。

 日本の原発は1966年、茨城県東海村に最初の原発が出来て以来53基(総出力4524万8000キロワット)が稼働し、発電量比率は火力が約50%、原発が約40%、水力が約10%だ。今後、二酸化炭素排出量削減に向けて原発への依存は増し、2010年度までの発電量比率目標は、原発45%、火力42%になっている。1998年末時点で運転中の原発は429基(合計出力は3億6469万7000キロワット)。日本は53基(合計出力は4524万8000キロワット)で、アメリカ(107基)、フランス(56基)に次ぐ世界第3位の「原発依存大国」だ。

原発先進国アメリカの原発寿命の延命事情
 原発寿命の延命を前提に原発60年稼働の道を検討していたアメリカの原子力規制委員会(NRC)は、40年の免許が切れる原発に対して、さらに20年の延長を認める免許の更新をおこなった。これは98年4月に更新の申請が出されていたメリーランド州にある加圧水型原発2基(2016年までに40年の免許が切れる)についてで、2036年までの稼働を認めた。
 アメリカで稼働中の原発は、2020年代までにはほとんどが免許切れを迎えるが、新規の立地が困難なため、60年稼働にむけてその大半が更新を目指すものとみられている。

商業用原発の廃炉
 日本原子力発電は、軽水炉に比べ採算が悪く、想定していた40年より短い32年(98年)で運転を止めた茨城県東海村の東海原子力発電所(天然ウランを燃料とするガス冷却黒鉛減速炉で出力16万6000キロワット)の廃炉作業に2001年12月からはいった。
 商業用原発の廃炉は日本初で、将来の廃炉の前例となるが、2010年度までは放射能レベルの高い原子炉付近と、放射性物質の飛散を防ぐ建物は解体せず、タービンや熱交換機など周辺設備の解体、撤去にとどめ、2011年度から7年かけて原子炉や建物を解体する。
 理由は、17万7300トンの固体廃棄物のうち1万8100トンは放射性廃棄物として30〜数百年間の管理が必要となり、処分地として、原発運転中に出る低レベル放射性廃棄物を埋設している日本原燃の青森県六ケ所村の施設を想定しているが、規制が未整備の部分もあり、決まっていないからだ。
 今後、930億円の廃炉作業費用を見込み、解体に350億円、廃棄物の処分に580億円を想定している。

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●使用済み核燃料の中間貯蔵施設づくり●

 通産省と科学技術庁は、原発から出る使用済み核燃料の中間貯蔵施設づくりをめざし、発電所や再処理工場以外でも貯蔵できるようにする原子炉等規制法(炉規法)を改定する方針も決めた。貯蔵規模約5000トン、総事業費1500億〜3000億円という極めてアバウトな予算で電気事業者など民間が中心になって設置し、2010年に運用を始めたいとしている。
 原発全体の貯蔵能力は約1万2000トンあるものの、数年でプールが満杯になってしまう原発がある。

 使用済み核燃料は、原発内の貯蔵プールに一時的に保管した後、青森県六ケ所村に建設中の再処理工場で年間約800トンを再処理する。しかし、 使用済み核燃料は年間900トンほど発生し、計画通り2003年に六ケ所村の再処理工場が稼働したとしても、処理能力は不足する。結果、使用済み核燃料は増え続け、貯蔵施設は足りなくなる。このため、 現在の炉規法では原発や再処理工場の敷地外での使用済み核燃料の貯蔵を認めていないので、これを改定し、新たに中間貯蔵施設に関する項目を追加して、原発外での貯蔵施設づくりをもくろむ。

 現在、使用済み核燃料の中間貯蔵施設を誘致する動きは、鹿児島県・種子島などで99年夏から、中種子町や西之表市の無人島、馬毛島などへ誘致する動きが活発化している。このことから鹿児島県知事と西之表市長は3月の議会で、立地反対を相次いで表明。また、鹿児島県・屋久島の屋久町議会は3月27日の本会議で、同町への放射性物質の持ち込みの拒否と、同県の種子島など1市4町(熊毛地区)での原子力関連施設の立地、建設に反対する条例案を全会一致で可決し、絶対拒否の姿勢を示している。放射性物質の持ち込み規制条例は全国で初めてだが、放射性廃棄物の持ち込み拒否条例は岐阜県土岐市と岡山県湯原町にある。

※貯蔵施設については「ニュースファイル/核・被ばく・原発関係」の「動き出した核燃料サイクル事業/青森、押し付けられる核と核のゴミ」にも関連記事があります。

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●核燃料再処理工場操業延期の憂鬱●

 青森県六ケ所村に建設中の使用済み核燃料再処理工場では、2003年に同村に完成予定の再処理工場で使用済み燃料が再処理される予定だったが(操業開始時期は1996年の大幅な設計変更に伴ない、2000年操業開始予定が2003年1月に変更された経緯がある)、工場本体の建設工事の進ちょく率が1999年2月末で12%にすぎず、日本原燃が「予定通りの操業開始は困難」との結論を出し、操業開始を2005年7月へと2年半先送りしたことに伴ない、向こう3年間の使用済み燃料の搬入計画も下方修正され、受け入れ量も大幅に減ることになった。

 この結果、「トイレのないマンション」と称された原発は、ますます発電所内での使用済み燃料の貯蔵量が増え、再処理事業の遅れがひいては、国のプルサーマル(混合燃料利用)計画にも影を落としかねないという八方ふさがりの状態になり始めた。

 再処理工場の操業開始時期を2003年とした従来の計画では、国内の原発敷地内に貯蔵されている使用済み燃料(1998年で使用済み燃料のウランは重量換算計約7020トン)を1999年度に300トン、2000年度と2001年度に各400トンを六ケ所村に搬入し、操業開始までに計1600トンを受け入れる予定だった。今回、操業開始が先送りされたことで、受け入れは1999年度に124トン、2000年度と2001年度に各250トンに減った。
 貯蔵容量の限界が近いとされている東京電力福島第二原発や関西電力美浜原発などを筆頭に、電力各社は当面、収納ラックの間隔を狭めて貯蔵容量を増やす「リラッキング」などと称される対応策に頼らざるを得ないが、これも「当座しのぎ」に過ぎず、「もはや限界」との声が高い。加えて1998年10月に始まった六ケ所村への使用済み燃料搬入は、直後に発覚した使用済み燃料輸送容器のデータ改ざん問題で中断、1999年6月に入ってやっと再開のめどが立ったという状況だ。
 国が進めるプルサーマル計画も、使用済み燃料の搬入と再処理が大前提になるため、この操業遅れは、平成22年までに国内16〜18基の原発に導入が予定されているプルサーマル計画そのものの見直しも迫られることになりそうだ。

ウラン濃縮工場もダウン
 また、原発用の国産燃料確保をうたい、1992年に青森県六ケ所村の核燃料サイクル基地で操業開始した日本原燃のウラン濃縮工場は、未だに当初目標の生産規模を達成するめどが全く立っていないのが実情だ。

 ウラン濃縮とは、天然ウランには原子炉燃料として使うウラン235が約1%弱しか含まれていないため、遠心機などを使い、約5%にまで濃縮するというもの。

 日本原燃は、国内の原発が必要とするウラン燃料の少なくとも四分の一を賄うことを目標に工場建設を進めてきたが、濃縮行程をこなす遠心機に故障が多く、能率が悪いことから濃縮行程の設営を停止。 遠心機の改良や新たな機械の開発を行なったが、新たな機械の開発は、技術的な問題で大幅に遅れ、現在は開発そのものが止まった状態だ。

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★プルサーマル用MOX燃料の輸送★

 日本はこれまで国内原発で発生した使用済み核燃料の大部分をイギリスやフランスなどの施設で再処理依頼してプルトニウムを取り出 してきたが、欧州からのプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料輸送の1999年実施を目指した日本に対し、アメリカ政府が1999年5月、日米原子力協定に基づいて正式に承認したことから、プルサーマル用に使われるMOX輸送に向けた外交上の手続きが整い、初のMOX輸送が開始された。

MOX燃料
 イギルス政府は、核燃料会社「BNFL」がイギリス・セラフィールドに計画している日本と欧州向けのMOX燃料加工が中心のMOX燃料加工工場建設を承認したが、BNFLによるMOX燃料の データねつ造が相次いで発覚したことから、現在のプラントの一時閉鎖を決めると共に、新プラントの認可を当分見送ることを決めた。
 この新しい加工工場は、約500億円を投じた最大級の商業用プラントで、年間120トンのMOX燃料加工を行なう予定だったが、現在は、これまでのプラントおよび新プラント共に政府の許可が出るまで稼働できない状態になっていることから、日本向けのMOX燃料を製造し直す、あるいは新規に製造するめどは、全く 立っていないのが実情だ。

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★原発、プルサーマルの時代に★

 関西電力が福井県高浜町の高浜原発3号機・4号機で導入を予定しているプルサーマル計画について、福井県が1999年6月17日、正式に受け入れを決め、最終了承したことで一時はプルサーマルの年内スタートが決まったものの、欧州から輸送されたMOX燃料で検査データが、製造元のイギリス核燃料会社(BNFL)でねつ造された問題が発覚する他、東海村の核燃料製造施設での臨界事故問題などで、安全性に対する懸念が拡大し、計画そのものについて大幅な見直しが必要になった。

 順調に進めば、関電は、この他、大飯原発での実施計画も立てていた。
 関電は、1999年夏からの計画実施を目指して、国の安全審査を受けるための同意を福井県から得ていた。また原子炉設置変更の許可も下りていたが、核燃料輸送容器のデータ改ざん問題が発覚したため、MOX燃料輸送容器の承認作業をやり直し、2000年1月からの運転開始に軌道修正していた。 

 また、東京電力が福島第一原発3号機で導入を予定しているプルサーマル計画についても2000年2月のスタートがほぼ決まったほか、新潟県の柏崎刈羽原発3号機でも実施される予定だったが、新潟県は、プルサーマル計画の1年延期要請を国および東京電力に対して行なった。
 これに関して通産省資源エネルギー庁は「事故の影響という点では残念だが、延期期間は予定の範囲内で、新潟県など自治体側が政策を変更したとは考えていない。 事故以来、立法措置も含めて信頼回復に努力してきた。自治体側には引き続き説明を続け、理解を求めたい。プルサーマル計画の安全性と東海村の事故は直接、関係がないと考える」としたが、実施主体の東京電力は、地元の要望を受けて1年延期を決めた。

 そして1999年12月16日、福島県の佐藤栄佐久知事は、東京電力が導入を計画している福島第一原発3号機でのプルサーマルで使われるMOX燃料について、検査体制に不備があるのではないかと通産省に抗議し、再検査を要請。同省から「再調査してデータを徹底的に確認するまでMOX燃料は装荷させない」との回答を引き出したことを受けて、2000年2月開始予定だった福島第一原発でのプルサーマルについて、「実質的な延期になることもあり得る」とした。
 東電分のMOX燃料はベルゴニュークリア社(ベルギー)が製造、イギリス核燃料会社が製造した関電分と合わせて海上輸送され、1999年9月末に日本に到着した。福島第一原発では、2000年1月中旬の原子炉への装荷、2月7日のプルサーマル発電開始を予定していた。
 ベルギーで製造したMOX燃料データの再確認作業をしていた東電は、「品質やデータは十分信頼できる」との調査結果をまとめ、通産省や福島県などに報告したが、「プルサーマルの今後のスケジュールについては、現時点では言えない」と当面見送る方針を示した。

 その後、東京電力は2000年11月に、2001年春の定期検査の際に原子炉にMOX燃料を入れるとの見通しを示すと共に、新潟県柏崎刈羽原発3号機でも2001年に実施予定とした。しかし、2001年2月に東電は、新規電源開発計画の凍結方針を発表。これを受けて福島県知事は、「県民に対し、核燃料サイクルを含むエネルギー政策全般に対する不信感を招いた」と判断し、県議会2月定例会で、当面、計画を受け入れる考えのないことを表明。また、「国、事業者はエネルギー政策全般を抜本的に見直す必要がある」と指摘すると共に、東電が県に正式な申し入れをしないまま進めている福島第一原発7、8号機の増設計画に対しても、「電源立地県として事業者に対する課税の在り方も含め、じっくりと検討したい」とし、現状以上の原発立地に頼らない地域振興を模索する考えも併せて示し、プルサーマル計画はまたしても1年先送りとなった。

プルサーマル
 
プルサーマル計画とは、事故で見通しが立たなくなった高速増殖炉に代わる国の核燃料サイクル政策の一環として存在するもので、プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を一般の原発で燃やすというもの。電力業界は2010年までに16〜18基の原発で導入を計画している。
 
プルサーマルの一番の問題点は、原子炉内の核反応を調節する制御棒の利きが低下し、制御が不安定になるということ。原子炉安全専門審査会でも、制御棒の利きの低下を認識している。しかし、「制御が不安定になることはない」とするのが推進を前提にした審査会の見解だ。またさまざまな事故を想定した場合、周辺住民の被ばくの危険も指摘されているが、これに関しても「被ばくの危険は小さい」と審査会では結論付けている。

 そして、原発燃料としてプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料だけを使う「フルMOX」を前提に設計した改良型沸騰水型炉(ABWR)の安全審査についても、国の原子力安全委員会は「フルMOXでも炉に与える影響はほとんど変わらない」として「審査基準を変える必要はない」と結論づけている。
 原発の燃料はウラン燃料を使用するが、プルサーマルでは、ウラン燃料にプルトニウムとウランの混合酸化物のMOX燃料を混ぜて使用する。しかし、フルMOXはMOX燃料だけを原発の燃料として使用するもので、ウラン燃料に比べてプルトニウムが多いMOX燃料は、原子炉内で核反応が進みやすく、制御に大きな問題が残る。そのため、世界ではフルMOX燃料使用の原発稼働を見合わせているのが実情だ。
 原子力安全委員会が「現行の原発の安全評価審査指針で充分」と、時期尚早の結論を出した背景には、電源開発が青森県大間町に2002年着工を目指している大間原発からの「フルMOX」燃料使用が計画として存在しているからで、この結論は、あらかじめその計画を認めることを前提に出された模様だ。

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★高レベル放射性廃棄物の搬入★

 日本原燃と原燃輸送、関西、東京、中部、中国、九州の各電力会社は1999年6月10日、科学技術庁に対し、フランスから青森県六ケ所村への高レベル放射性廃棄物の搬入申請をした。
 搬入時期は1999年10月から2000年3月までの間で、過去最多のガラス固化体104本が返還された。フランスからの返還は1999年4月に続いて通算5回目。
 これまでは、軽水炉用ウラン燃料の再処理で出た廃棄物だけが日本に返還されたが、新たな返還分には、フランスやドイツ、ベルギーなどのMOX(ウランとプルトニウムの混合)燃料、高速増殖炉用燃料から出る廃棄物なども最大25%程度混じった固化体84本も含まれた。
 ガラス固化体104本の内訳は関西電力が46本、東京電力28本、中部、中国、九州の各電力会社が10本。輸送容器は4基で、六ケ所村のむつ小川原港まで海上輸送された後、日本原燃の高レベル廃棄物貯蔵管理施設に運び込まれた。

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★高レベル放射性廃棄物の最終処分★

 原子力発電の最大の問題である高レベル放射性廃棄物の最終処分(地下数100メートルに埋める処分)について通産省資源エネルギー庁は、処分費用の拠出を電力会社に義務付け=電力料金に上乗せ、処分業務は新設の民間組織、資金管理は既存の財団法人に受け持たせることを決め、通常国会に「特定放射性廃棄物の最終処分法案」として提出、成立した。10月1日に電力会社などが設立する「原子力発電環境整備機構」が発足、同時に資金管理団体が指定される。経済変動などで同機構が業務を行なえなくなった場合、通産大臣が代行する。
 通産省の算定では最終処分費用は3兆円超え。2000年10月から一家庭当たり月額約14円の負担を電力料金に上乗せして求める方針だ。
 アメリカ、フランス、ドイツ、スウェーデンなどではすでに高レベル廃棄物処分のための資金調達が始まっている。

 処分法では、原子力発電環境整備機構が実際の処分にあたると定めた。事業資金を管理する組織は、通産相が指定する既存の財団法人をあてる。

 処分費用は、地下数100メートルに埋める処分場の選定、建設、処分作業などから、国が半年ごとに算出し、電力会社が電力料金に上乗せして拠出する。この資金はいったん資金管理組織にプールされ、必要に応じて処分組織に交付する。処分場の選定や建設は処分組織が受け持つ。ただし、候補地が決まれば、国が定める高レベル廃棄物処分の基本計画に盛り込まれ、国の政策に位置づけられる。

 これに合わせて核燃料サイクル開発機構は1999年11月26日、原発の使用済み核燃料を再処理した際に発生する核のゴミ=高レベル放射性廃棄物をガラス固化体し、地表から500〜1000メートルの深地層に埋めるという「高レベル放射性廃棄物最終処分」について、「約10万年たっても人が住む環境を脅かすことなく安全に処分可能」とのリポートをまとめ、原子力委員会に報告していた。

 リポートは原子力委員会・原子力バックエンド対策専門部会の指針に基づいて核燃機構が作成し、「日本の地質環境」「地層処分の工学技術」「安全評価」の3冊と総論からなっている。
 それによると、処分する地層については、活断層や火山地帯を避け、地殻変動の影響を受けにくい地域を選ぶことは可能だとし、固化体を覆う隔壁についても技術的には従来の想定よりも厚みを減らし、経済的にも負担の小さい処分法が取れるとした。その上で、地下水の塩分が強まったり、地下水の流れが速まったりした場合を想定しても、日本には今後10万年以上経過するまでに人が住む環境に及ぼす影響を心配することのない地質環境が広く存在し、長期にわたって地層処分に求められる条件を満たす処分施設を適切に設計、施工する技術もあり、安全性は保たれると結論付けた。ここでもまた、「先に問題なし」とする段取りが見えている。

 しかし、家庭ゴミや事業ゴミでも処分施設を巡っては、問題や課題が山積されているのに、核のゴミの処分施設に対して、問題はない、と主張できる技術は日本にはないし、事故続きに事故隠しが常習の核燃料サイクル開発機構に、それを言う資格はないのが現実だ。
 このリポートが示した処分技術はいわば「ひな型」で、実際の設計ではそれぞれの施設の地盤や地質に、より適合した形にするというものの、実際の施設立地となると核廃棄物の最終処分場となるだけに、問題は解決不能なほど山積されることから、この「机上の空論」に近い結論付けには、極めて「マユツバ的なもの」が存在するようだ。

最終処分の2候補地
●通産省などは、「処分地選定は全国的な見地で行なう」としているが、 核燃料サイクル開発機構が北海道幌延町に計画している深地層研究所計画をめぐり、地元では「貯蔵工学センター計画は白紙撤回されたが、新たに計画が浮上した深地層研究所設置を契機に、幌延町が最終処分の場になり兼ねない」と、警戒を強めている。
 北海道庁としては、深地層研設置に関する結論を年内に出す予定で、幌延町および周辺の「核廃棄物施設誘致に反対する道北連絡協議会」などから反対意見を聴取した後に、検討委員会で報告書をまとめ、専門家による報告書の再検討などで結論を出すという段取りだ。また、研究所計画に対して核廃棄物の持ち込みにつながらない担保措置を検討しているが、道民の多くは、担保措置の実効性を疑問視しており、調整は難航しそうだ。
 推進の立場の幌延町長は、2000年1月4日に町内で開かれた新年交礼会などで、早くも「研究所計画は年内にも実現する」との見通しを示し、積極姿勢をアピールしている。

●現在は主に、フランスから返還された高レベル放射性廃棄物のガラス固化体が六ケ所村に貯蔵されている。返還は1995年4月に始まり、現在も返還中だ。この廃棄物は、国内の原子力発電所で出た使用済み核燃料をフランスまで運び、仏核燃料会社(COGEMA)の再処理工場でプルトニウムとウランを取り除いた後に残った廃液。六ケ所村には今後10年以上かけて3000本以上のガラス固化体が運び込まれる計画だ。だが、地下数千メートルに最終処分される施設のめどは立っていないため、最低でも30年〜50年は、六ケ所の施設で貯蔵される。このため、このまま青森県六ケ所村が最終処分地の役を負わされてしまう可能性も否定できない。

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★原子力史上最悪の「臨界事故」★

 1999年9月30日午前10時半ごろ、茨城県東海村で住友金属鉱業100%出資の子会社である核燃料製造メーカー「JCO東海事業所(旧社名、日本核燃料コンバーション)」のウラン加工施設で「国内原子力史上最悪の臨界事故」が発生し、施設から放射能が漏れ出す惨事が発生。作業中の従業員3人が大量に被ばくしたのをはじめ、10月2日時点で総数49人が被ばく(最終的に被ばく者数は増えることが予測される)。施設のすぐ近くでは、放射線量が通常の約4000〜1万5000倍に達し、半径350メートルの周辺世帯には避難勧告が出された他、半径10キロの範囲で屋内待機が要請され、混乱した。
 この混乱は10月2日に解消されたが、改めて原子力施設や業務をめぐる「不備」や「欠陥」、科学技術庁や原子力安全委員会の対応能力の無さが浮き彫りになり、我々国民は、否応なく常に危険と隣り合せでの生活を強いられていることを再認識する格好になった。

 JCOの施設は、6フッ化ウランを原料にして、二酸化ウランに転換・加工して電力会社に納入する「ウラン燃料加工」が行なわれている工場で、今回の臨界事故(一定量以上のウラン235などに中性子が衝突すると、核分裂反応が持続的に進行するようになる。この状態を『臨界』といい、これに伴なう爆発などで発生した事故が臨界事故)は、国へ届けた本来の作業手順書とは別に、一部の作業工程を省略するため、未承認のステンレスのバケツ容器を使った違法性の高い内部手順書を作り、日常的に手抜き工程による加工を行なっていた挙句に招いた「犯罪」であることが判明した。企業責任の追及は勿論のこと、当然のことながら事故の重大性から科学技術庁は、臨界事故を起こしたJCOが国の許可申請を受けた燃料加工工程と異なる違法なマニュアルを作成し、無許可のステンレス製バケツを使って操業していたことが国内での原子力史上最悪の事故事故につながったとし、原子炉等規制法に基づき、JCOの事業許可を取り消すことを決めた。

 JCOの生産ラインがなくなると、国内でウランを再転換するのはJCOと三菱原子燃料の2社だけのため、国内の核燃料製造能力は大幅に低下する。核燃料製造メーカーなどは、コスト安の海外企業への依存度を高めてめており、JCOからの供給がなくても当面は燃料が不足する事態にはならない、と見ているが、長期的には原子力業界全体としてのダメージは避けられない模様だ。
 法律上は処分後2年で再申請が可能だが、科学技術庁では「現時点で再開、再申請の議論をするのはまったく不適切」としている。

 ちなみに事故現場の放射能汚染されたウラン溶液の処理だが、転換試験棟内の沈殿槽には、重量で16・6キロのウランと、臨界でできた核分裂生成物を含む37リットルの溶液があり、この溶液処分は、槽内から運び出して核分裂生成物を分離し、高レベル放射性廃棄物と同じようにガラス固化して廃棄する。
 東海村内には日本原研と核燃機構があるが、原研は、実験施設であるために年間の取り扱いウラン量は200グラム程度が限度。16・6キロの早期ウラン処理は現実的には無理だ。核燃機構の施設は、燃料棒を前提に国の許可を得ているため、直ぐにはウラン溶液を扱えない。仮に「変更申請」をしても審査を経ると認可に半年はかかる。勿論、ウラン溶液を外に運び出すには、容器審査が必要。

 そうした中、JCOは、臨界事故を起こした東海事業所転換試験棟の沈殿槽のウラン溶液を1999年12月から安全な容器への移し替え作業を開始。作業は12月末までに終え、いったん同事業所内に4リットルのステンレス容器20本に分け保管。2000年3月から4月にかけて核燃料サイクル開発機構に輸送、その後に処理する。処理するのは、沈殿槽内にある37リットルのウラン溶液と、バケツなどに残った溶液、事故時に臨界を止めるためにホウ酸水を注入したホース内の溶液など。

 科学技術庁は、安全管理を軽視していた点を重視して「施設外への大きな危険を伴なう事故」と認識し、一度は「レベル5」と判断する方針も覗かせていたが、「レベル5」だと、炉心溶融につながったアメリカ・スリーマイル島(TMI)原発事故と同レベルになり、スリーマイル同様に旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の「レベル7」に次ぐ危険きわまりない原子力関連施設事故事例のひとつとして歴史に刻印されることとなるため、最終的には、この臨界事故を「施設外への大きな危険を伴なわない事故」として原子力事故国際評価尺度を「レベル4」と低めに判断。評価検討委員会に諮問したうえで正式決定し国際原子力機関(IAEA)に報告する。
 しかし、評価尺度の「レベル4」は国内ではこれまでで最悪。臨界事故が発生しておりながら、発生から5時間近く経過しないと「臨界」の判断が出来なかった科学技術庁のオソマツさも併せて、全世界にアピールしたことにもなった。

 この事故では、作業中の従業員3人が大量に被ばくしたのをはじめ、同社の敷地内にいた50人、敷地外7人、消防署員3人の計69人に、事故処理で冷却水の抜き取り作業などをした14人の83人が被ばくした。事故当時、敷地内には123人がいたが、被ばくが確認されていない残りの64人は、事故発生当時「フィルムバッジ」(ガンマ線測定器)を身につけていなかったため、被ばく者数から除外されているが、この64人も放射線の影響を受けている可能性が強い。

 また、この臨界事故で、風評被害なども含む茨城県内の商工業、農畜水産業に与えた損害などの合計額は、150億円超えになることが県の調査で分かった。商工業では96億円、農畜水産業では25億円、観光業関連では15億円、交通機関関係では2億、競輪やゴルフ場など他の産業では7億円の被害が出たとしている。また減収が見込まれる県税は核燃料等取扱税を含めて7億円、同県が10月末までに支出した災害対策経費は4億円にのぼった。

 すでに住友金属鉱山は親会社としての補償について、「公正・公平に対処したい。早いもの勝ちというわけにはいかず、総枠が決まれば、全額支払わざるを得ない」と述べ、原子力保険でまかなわれない被害補償のうち、JCOの負担能力を超えた分については、親会社として支払う用意があることを10月27日の段階で表明。2000年3月8日、住友金属鉱山は補償総額が130億円にのぼるとの見通しを示すと共に、5150件で示談が成立し、約75億円は支払済だと発表した。

 原子力損害賠償法では、賠償に必要な金額を供託するか、原子力賠償責任保険に加入することが義務づけられている。保険金額は最高額が300億円(2000年1月から600億円)で、JCOのような核燃料物質の加工施設は10億円。保険金額を超える被害については原則として、事業者が無限責任を負うことになっている。
 また同法では保険とは別に、国が国会の議決を経て、事業者への低利融資や資金援助など必要な援助を行なうことができると規定されている。JCOおよび住友金属鉱山で払いきれない分が発生した場合、失墜した原子力発電事業の信頼を補うためにも、政府は「万全の補償を行なった」という姿勢を取りたいために、補償資金援助を実施する可能性が高いが、どの領域から援助に取り組むのかは未定。

●大量の放射線被ばくをした大内久さん死亡
 
茨城県東海村のJCO東海事業所での臨界事故で、大量の放射線被ばくをし、東京大学付属病院に入院していた同社員の大内久さん(35歳)が事故発生から83日目の1999年12月21日午後11時21分に還らぬ人となった。

 大内さんは、普通の人が1年間に浴びる放射線の約1万8000倍に当たる推定15〜20シーベルトもの致死量を上回る大量の放射線を全身に浴び、やけど、臓器障害、腸の障害など、急性放射線障害の典型症状とされる悪化が続いた。
 大内さんのからだは、被ばくにより血をつくる幹細胞が破壊されたため、造血と免疫の機能再生のために放射線障害の治療としては世界初の「末梢血幹細胞移植」が10月6〜7日に実施された。しかし、影響は体の深い部分までおよんでいて、やけどで皮膚がはがれても再生しない状態となった。全身の7割が熱傷していることから、皮膚の脱落が続いて体液が1日に3キロ程度流出、1日10リットル前後の輸血と輸液の点滴をし、大規模な皮膚移植を繰り返したが、全身の熱傷や腸管の損傷、呼吸器障害、免疫力低下などが大内さんを次々に襲い、容体が悪化。
 大内さんは、11月27日午前7時すぎにはいったん心臓が止まるなど、重篤な事態にもなっていた。心臓マッサージや昇圧剤の投与などで1時間後に自発呼吸が回復したが、心停止状態の際に、肝臓に血液が通わなくなり、呼吸、循環機能が極度に悪化するなど厳しい状態が続き、酸素注入や昇圧剤の増量などで血圧や脈拍など、かろうじて維持している状態が続いていた。

 事故当時、大内さんは同事業所の転換試験棟で、酸化ウラン粉末を硝酸に溶かす作業に従事。ウラン精製の作業でウラン溶液を沈殿槽に大量に入れたため、溶解に使っていた沈殿槽で核分裂が連続する臨界反応が起き、その瞬間に発生した中性子線を中心とする強い放射線に直撃され、大量に放射線被ばくをした。すぐに現場から助け出されて茨城県水戸市の国立水戸病院に運び込まれたが、被ばく症状が重いため、科学技術庁直轄の千葉県千葉市にある放射線医学総合研究所病院にヘリ移送された。検査の結果、大量被ばくが判明し、東大病院に移送して徹底治療が実施されていたが、放射線被ばくによる多臓器不全で亡くなった。

 原発を含む国内の原子力施設で、公にされないままに何らかの被ばくを要因とする死者は、因果関係の確実な立証に至らないまでも、これまでも出ている模様だが、今回の惨事のように、国内初の臨界事故で、大量に被ばくしたことが原因で直接、死亡したのは大内さんが初めてになる。

●大量の放射線被ばくをした篠原理人さん死亡
 JCOの臨界事故で大量被ばくし、東京都文京区の東京大学病院に入院していた同社社員、篠原理人さん(40歳)が、2000年4月27日午前、放射線被ばくによる多臓器不全で死亡した。

 事故時に大量の中性子線を浴びた篠原さんの被ばく量は、千葉市の放射線医学総合研究所病院の検査では、1年間の許容放射線量1ミリ・シーベルトの6000〜1万倍に当たる約6〜10シーベルト相当と推定された。被ばくにより、全身の細胞が障害を受けて免疫機能が低下するなど、典型的な急性放射線障害に陥った。
 皮膚移植や造血機能の回復を狙った臍帯(さいたい)血移植などで一時、容体は安定したが、今年2月下旬頃から、胃をはじめ肺や腎臓などの機能が著しく低下して重篤に陥り、被ばくから211日目に多臓器不全により亡くなった。

 これで原子力史上最悪の事故による犠牲者は、大内久さんに続き2人目となった。

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★安全対策組織の実態★

 高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故や東海村核燃料加工施設での臨界事故など、最近になって大きな原子力事故が続発する度に、国民に代わる監視役でもある原子力安全委員会の無能さが問題視されてきたが、この度、これまで科学技術庁内に事務局を置いていた原子力安全委員会を総理府に移すことが決まった。
 原発を推進させるために首相の諮問機関として存在する原子力安全委員会は、主に科技庁や通産省が行なう原子力発電などに関連する安全審査を、さらに吟味して国民的視点から再審査するいわば「ダブルチェック機関」というのが建て前。過去から現在に至るまでの実態は、科技庁などの開発実施機関の意向通りに「お墨付の合意」を与える機関として存在し続けてきた。
 これまでは何とかそれで済んできたが、予測さえつかなかった東海村の臨界事故では、それでは済まず、周辺住民の避難要請という重要な局面に対しても、国および原子力安全委員会は成すすべもなく、その頼りなさが表面化するばかりか、事故につながった違法な工程を科技庁も原子力安全委も見抜けなかったなど、ここにきて安全行政の欠陥を鮮明に露呈しはじめた。

 このため、態勢の強化はもとより、もともと「監視機関の独立性に疑問がある」と指摘されているにもかかわらず、今後も開発実施機関と監視機関が同じ場所にあり続ければ、原子力開発に対する国民の理解がますます得られなくなる、という理由から、本来の所管である総理府に事務局を移すことになった。
 事務局員も現在の19人から倍の40人に増やして強化を図る。省庁再編の2001年1月までに事務局員を60人にし、技術参与も含めて100人体制を実現する、としている。原子力安全委員会は省庁再編に伴ない内閣府に移管されることになっていたが、前倒しで「独立性の強化」を印象付けることにした。しかし、どこに事務局が移ろうが、「先に推進ありき」の姿勢には変化はなく、国民に代わるチェック機関としての信頼度は、あまりないというのが実情のようだ。

 また、これまで、事故のたびに事業者側の安全対策の不備や当局側の安全規制や対応のまずさなどが指摘されてきたことから、「その充実を目指す」という建て前を掲げて、2001年からの省庁再編に伴い、通産省に代わる経済産業省に、国民に代わる監視役とは正反対の、原発の推進を大前提にしたうえでの安全対策組織「原子力安全・保安院」が新設され、原発政策をめぐっては推進一辺倒に偏重した体制が強化される。

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★水道水の放射線測定★

 厚生省は不測の放射線漏れ事故に対応して、原子力施設がある自治体とその周辺自治体(全国17地域、約100の自治体)に対し、水道事業者が放射線測定器を配備する場合、補助を行なうことを決めた。

 WHO(世界保健機関)は、飲料水1リットルにアルファー線で0・1ベクレル以上、ベータ線1ベクレル以上検出された場合は線量の減少対策が必要としている。しかし、現在の日本の水道法では、重金属や有害物質の規制はあるものの放射線の規制がない。このため、水道事業を行なう自治体に放射線測定の義務はないが、JCO東海村の臨界事故では、茨城県では周辺6市町村で放射線測定器を備えていたのは日立市だけだったことから、飲み水の安全確認に時間がかかった。この教訓を生かすために助成が考え出された。

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★風力発電の事業化★

 原発に代わるいわゆる代替発電への取り組みや関心も徐々に高まりはじめ、秋田県能代市で全国的にも先進例となる風力発電の事業化調査に乗り出し、1999年に風車設置のための地質調査、周辺環境への影響調査、送電線への連絡状況など具体的な調査のほか、採算性も検証していた東北電力は、2000年1月17日、グループの東北発電工業、ユアテック、東北緑化環境保全の3社が出資する事業会社を通して、能代市で、風力発電事業に初めて参入すると発表した。
 計画によると、能代市の県有地で約3キロにおよぶ海岸線の敷地面積約6万平方メートルに、2000年10月から総工費33億円をかけて、東北最大級となる出力計1万4400キロワットの風力発電所を建設する。東北最大級の出力で、全国10電力会社の中でも初の試みとなる。

 新会社「東北自然エネルギー開発」(2000年2月18日設立)として、1基600キロワットの風車24基を建設、2001年12月からの運転開始を目指す。事業費の3分の1程度は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助金を見込む。

 風力で起こした電力を1キロワット時当たり11円50銭で東北電力に販売する。順調に行けば、今後は能代以外の他の事業候補地についても検討するという。
 東北電力は自然エネルギー利用推進の一環として、青森県に風車10基を備えた「竜飛ウインドパーク」(約2800キロワット)を建設して実証試験を重ねてきてきた。
 
 風力発電が開始されれば、新エネルギーの「環境に優しい風車」が能代市の海岸に立ち並ぶことになり、その姿は「厳しい気候をプラスに転化した見本」として、あるいは「代替発電事業化のシンボル」として、全国から注目を集め、熱い視線を浴びることは確実だ。

 ちなみに現在、稼働中や建設中の風力発電施設は三重県久居市の試験用3000キロワットや北海道の2〜3万キロワット級。国の風力発電導入目標は2010年までに30万キロワットで、600キロワットの風車を毎年30基ずつ増やしていくという。

 風力発電は、通産省が98年から建設費の半額を補助する制度をスタートさせたことや電力自由化で売電が可能となったことなどが「追い風」となり、「環境に優しいクリーンエネルギー」として建設計画がめじろ押し。NEDOによると、全国では売電や施設用電源などを目的に企業や自治体による174基の風力発電施設が稼働中(99年12月現在)だという。

 例えば沖縄の宮古島では、国営初となる農業用水用の風力発電施設の建設が進められている。地下ダムの水をくみ上げる取水用ポンプの動力を賄うもので、2000年秋頃の供用開始を目指す。
 宮古島では1990年からNEDOと沖縄電力が風力発電施設を建設。現在7基が設置され、沖縄電力が実証試験を重ねているが、農業用風力発電は、県の沖縄総合事務局宮古農業水利事業所が進めているもので、99年度沖縄特別振興対策特定開発事業として採択された。
 農業用水のコスト低減を図るとともに、沖縄の特性を生かした観光農業を支援するための施設整備が目的で、事業費は約3億円。

 設置される風力発電施設は、羽根の直径約50メートルのデンマーク製で出力600キロワット。1基でポンプ8台を動かし、1日1万6000トンを取水する計画だ。

 宮古島では地下ダムで現在約3000ヘクタールの畑に給水し、2018年までに8000ヘクタールにまで拡大する計画がある。取水にかかる電気代は99年で5000万円弱で、8000ヘクタールになると2億7000万円近くになる。このため、風力発電施設でコスト低減を図る。
 しかし、宮古島全体の取水を賄うには10数基の設置が必要で、1基だけだと単なる「飾りもの」になる可能性もある。

 水需要の多い夏場は風が弱く、風のある冬場には需要が少ないという需給のアンバランスもあるが、風力発電は、とにもかくにもクリーンエネルギーとして注目度は高い。

 さらに全国の港では、北海道の室蘭港や静岡県の御前崎港などで風力発電施設が設置されており、千葉県の千葉港や愛知県の名古屋港でも導入の予定だ。

 これまでの国の風力発電導入目標は2010年までに30万キロワットで、600キロワットの風車を毎年30基ずつ増やしていくというものだったが、さまざまな地域での風力発電への取り組みで、この数字も更新可能な時を迎えている。

※風力などの利用に関しては、電力会社による事業化レベルに至らずとも、市民レベルでの代替エネルギー利用の取り組みも活発で、「太陽光・風力発電トラスト」「市民の、市民による、市民の為の共同発電所」「設置プロジェクト」など、興味深い活動が広がりつつある。

※青森県下北半島での原発建設の動きなどは「列島縦断ニュースハイライト」にあります。

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★電力の小売り自由化の動向★

●電力会社以外でも2000年3月21日からは、使用する電気設備の合計が2000キロワット以上の大口顧客に電力を自由に売れるようになる。
 対象となるのは、全国で約8000件、市場規模は3〜4兆円に達し、全電力販売量の約30%にのぼる、とみられている。

 このことから、山口県徳山市と新南陽市にまたがる周南コンビナートにある化学メーカー・東ソー(東洋ソーダ)南陽事業所は、自社内にある発電設備を利用して、隣接するコンビナート主要企業に電力の小売りをする方針を打ち出した。

 東ソー南陽事業所は、単一事業所では国内最大の自家発電設備(石炭火力発電・約68万キロワット)を持っており、その電力で工場の設備等を起動させている。今後は、電力の小売り自由化をバネに、隣接するコンビナート主要企業に、自社の余剰分電力を低コストで供給する、という計画だ。
 東ソーの計画では、コンビナートを形成する日新製鋼、トクヤマ(徳山ソーダ)、日本ゼオンなどの主要事業所・工場間を電力会社の送電線とは別の専用線で結び、余剰電力を東ソーから他の事業所に送る。

 その電力を購入するか否かは未決だが、東ソーの隣りでステンレスをつくる日新製鋼周南工場のある職員は、「電気の炉でステンレスを生産しているため、電気代は膨大。特に中国電力の料金は高く、コスト面で課題が多いのは事実。これが実現すると、石炭火力という点で酸性雨など環境的には課題もあるが、企業姿勢として捉えると、前向きな企業の垣根を越えた国内でも先進的な事業ネットワークの事例として、注目されるだろう」と評価する。

●東京ガス、大阪ガス、NTTグループの3社も共同で電力小売り事業に参入する。3社が持つ自家用発電設備を活用し、大口需要企業に電力を販売する。
 東京ガス、大阪ガスの狙いは、NTTグループそのものが国内最大の電力需要企業の1つであることから、まずはNTTを顧客として確保し、NTTグループが停電など非常時用に備えている自家発電設備も活用したいところにある。また、NTTの狙いは、固定電話の加入者の減少で収益の柱が崩れかけていることから、電力事業参入でこれまでの電力会社からの買電量を減らし、コスト削減を図りたいというところにある。
 双方の利害が一致したことから、共同事業化が決まった。

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★国民投票で原発の全廃を決めているスウェーデンの動向★

 1980年の国民投票で原発の全廃を決めているスウェーデンで、稼働中の原発を運転停止、閉鎖する作業が開始された。
 総発電量の約半分近くを原発に頼っているスウェーデンは、国民投票で、原発の新規建設の中止と既存原発(稼働中の原発は12基)を2010年までに全廃することを決定していたが、閉鎖を指名された民間電力会社などが強く抵抗を続けると共に、代替エネルギーへの転換の遅れや雇用、経費などの問題で脱原発政策は事実上、後退していた。
 このほど閉鎖に動いたスウェーデンの民間電力会社シドクラフト社も原発廃止には抵抗し、閉鎖実施を先送りしてきた。しかし、政府との協議で、国営電力会社から2基相当分の電力約120万キロワットを無償供給を受けることが可能になったため、1999年11月月30日に同社は、スウェーデン南部のバーシェベック原子力発電所1号機(沸騰水型、出力約60万キロワット)を運転停止し、完全閉鎖に向けての作業を開始した。2号機も閉鎖する。
 1号機は1975年から稼働。30年寿命から見るとあと5年は稼働可能だった。勿論、日本のように60年稼働に道を開いた国からすれば十分に稼働が可能な原発だ。

 民間原発が廃炉となるのは世界でも異例。これを受けて、脱原発政策を打ち出している欧州各国がどのように反応するのかが注目される。

 また、当初2010年とした全廃時期の設定を、産業界などからの批判やエネルギー事情等の影響などから撤廃していたが、2020年をめどに全11基の閉鎖を実施するよう、原発の全廃政策を進める方針を改めて打ち出した。
 原発に代わるエネルギーとしては、過渡的には天然ガスを使うが、水力、風力、太陽光、森林廃棄物などの生物資源を基礎とする。

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★脱原発を掲げるドイツの動向★

 ドイツ国内に19基ある原発をめぐり、シュレーダー連立与党政権の「1年以内に脱原発の道筋をつける」という公約が、実現できなくなる懸念が強まっていた中、ドイツ政府と電力4社の協議が6月15日にまとまり、国内の原発に関して、原発の平均寿命を約32年として順次廃棄していくことで合意した。
 また、使用済み核燃料の再処理についても、遅くとも2005年夏までに終えることで合意、この合意に基づいて政府は、現行の原子力法に代わり、新規原発建設の禁止や再処理の禁止を盛り込んだ脱原発法案をつくり、議会に提出する。

 脱原発政策を担当しているミューラー経済相(無党派)は99年7月初め「原発は運用開始時期から35年以内に段階的に廃止する」「政府は電力業界に補償をしない」との基本方針をまとめ、首相の承認を経て連立政権内の調整に入った。ところが、反原発を立党の原点とする「緑の党」のトリッテン環境相は「全廃する時期が遅すぎる」と反発。対案として「原発全廃は15年以内とする」「次期総選挙(2002年)までに少なくとも1基は廃止する」などを提示したことにより紛糾。シュレーダー首相が双方の調停に入ったが、原発の早期全廃に執念を持つ環境相の姿勢は強硬で、両党の政策協議では隔たりは大きく、調整が長期化していた。
 原発廃止時期や補償をめぐって連立政権内の調整がつかないため、政府と電力業界の本格交渉もずれ込み、電力業界は「政府の方針には協力できない」と批判を強めていたが、緑の党が、原発即時廃棄の主張から、古くて効率の悪い原発から順次停止するという案に歩みよりを示しなどしたことから、電力業界も本格交渉のテーブルについた。

 ドイツは現在、総発電量の29%を原発に依存。原発廃止を具体化するためには、地球温暖化につながる二酸化炭素を排出しない別のエネルギー源が必要だが、風力や太陽熱など、代替エネルギー対策は手付かず状態になっている。
 また、連立政権が直面する事情はどこも同じで、政権内では「トリッテン環境相のような性急な脱原発政策は邪魔」とし、社民党の一部には一時、環境相の辞任要求も持ち上がった。

 一方、脱原発政策や世界的に原発受注が先細り傾向にある中で、今後の生き残りを図るため、加圧水型原子炉を製造してきたフランス国営原子力会社の「フラマトム」と沸騰水型を扱ってきたドイツ電機最大手の「シーメンス」は、両社の原子力部門を統合して合弁会社を設立することを決めた。出資比率はフラマトムが66%、シーメンスが34%。
 新会社の業務は、原子炉、核燃料の製造、メンテナンスが 中心で、フランス、ドイツ、アメリカで事業展開する。新会社は核燃料製造部門ではアメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)などを抜いて世界最大手となり、世界シェアの41%を占めることになる。

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★ロシア、外国相手に使用済み核燃料の最終貯蔵ビジネスをきめる

 外国の原発から出る使用済み核燃料の最終貯蔵を一手に引き受ける貯蔵引き受けビジネスを検討していたロシアは、2001年6月6日、下院での協議で、海外からの使用済み核燃料の輸入と貯蔵、再処理を解禁する環境保護法改正案など関連3法案を可決した。
 ロシアはこれにより、使用済み核燃料の最終処分、いわゆる核のゴミを永久貯蔵する「核のごみ捨て場ビジネス」に本格的に乗り出す見通しとなった。
 今後は、計画を推進している原子力省の議会工作により、環境保護派などの反対を押し切る形で上院の承認をとり、プーチン大統領が署名をして法案が成立する。

 計画では、シベリアのクラスノヤルスクとモスクワの東方にあるマヤークの最終貯蔵施設で受け入れる方針。2施設で最終貯蔵し、受け入れ可能な使用済み核燃料の量は計約3万トンの見込みだ。
 そのうち2万トン以上をドイツをはじめ西側諸国から受け入れる計画で、その他、日本からの核のゴミも想定。ロシアはこれで210億ドル(約2兆200億円)の収入を見込んでいる。
 ロシアは、これで得た外貨収入のうち75%を放射能に汚染された地域の「環境再生計画」事業に使う、としているが、国際世論の反対は必至で、なお曲折する可能性もある。

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★チェルノブイリ原発事故処理による被ばく作業員、ロシア国内で3万人以上が死亡

 ロシア保健省は、1986年4月に発生した旧ソ連・チェルノブイリ原発事故で、処理作業に従事して被ばくした作業員17万4000人のうち、約3万人以上がロシア国内でこれまでに死亡し、そのうちの58%は適切な医療や薬を得られないのが原因で死亡、また、38%が被ばく障害などにより、将来を悲観しての自殺であることを明らかにした。
 元作業員のうち5万人が障害認定を受けているが、それ以外は事実上、放置されたままの状態で、今後も元作業員の死亡数はさらに増えるとみられる。

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★フィンランド国会、原発の使用済み核燃料から生じる高レベル放射性廃棄物最終処分場の建設を承認

 フィンランド国会は2001年5月18日、原発の使用済み核燃料から生じる高レベル放射性廃棄物を地下約500メートルの岩床内に半永久的に貯蔵する最終処分場の建設を承認した。世界の原発保有国で最終処分場の建設を決めたのはフィンランドが初めて。
 フィンランド政府はこれまでも「原発は必要なエネルギーで最終処分場も国内に建設する責任がある」などの認識を示していた。フィンランドでは現在、社会民主党、緑の党など5党が連立政権を組んでおり、採決では、賛成159、反対37の圧倒的多数での最終処分場建設の承認となった。
 実際の建設に至るかはさらに安全性の協議が必要で不透明だが、首都ヘルシンキの北西約200キロの沿海地帯で建設予定地を最終選定する計画。着工予定は2010年で処分開始は2020年以降、としている。

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★アメリカのブッシュ政権、原発推進のエネルギー政策に転換?

 アメリカ大統領選の際にエネルギー企業などの業界および団体が共和党に多額の献金をした見返りとしてブッシュ政権は、スリーマイル島の原発事故(1979年)以来、原発増設に慎重だったこれまでの方針を転換して、再び原発推進を掲げる新エネルギー政策を打ち出した。

 野党の民主党や環境団体などからの批判をかわすために、新エネルギー政策には、省エネ推進のため「ハイブリッド自動車」の普及や「バイオマス」など自然エネルギーの研究開発に力を入れることも盛り込んでいるが、柱は、既存の発電所内を中心にした原発増設および高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設の推進、石油や天然ガスの増産、発電所許可の手続きの簡略化、精製所やパイプライン建設許可のための環境基準の緩和などとなっている。

 今回掲げた新エネルギー政策は、環境破壊につながる要素や時代の流れに逆行する面も多いことから、国民からの反発も必至の様相で、迷走傾向にあるブッシュ政権の舵取りは、今後、さらに迷走しそうだ。


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