◆事務局コラム◆

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軒下の日常【其の一/ツバメな話】

 昨年(2007)、目前の軒下にツバメが自分たちのお家を建てた。5月3日から6日間で新居が完成し、6月には5羽の子どもが誕生、リトル・ファイブと命名した子ツバメたちは、7月には元気に大空に飛び立った。巣づくりから巣立ちという期間限定だったが、初めて蒼水&七水は目前で、全行程をまさにリアルタイムで見続けることが出来た。このツバメ一家のおかげでとても優しい気持ちになり、常態化していた私たちの口喧嘩&口論回数が、めっきり減った。

 そして2008年4月末、夫婦のツバメが仲良く里帰りしてきた。うるさいほどのさえずりと上空での乱舞には、元気さがみなぎっていた。里帰りしてくれたうれしさに加え、今年もやっと口喧嘩&口論での消耗回数が減る時期を迎えたのだと思うと、感涙に咽ぶほど有難さが増すというものだ。ツバメさん有難う!

 今年は一体どんな動きをするのだろうかと目前の軒下を注意深く見ると、夫婦のツバメは、昨年のような急ピッチでの工事はせずに、どこからともなく藁や土を持ってきては築1年のツバメのお家を少しだけリホームするにとどめたようだ。

 それにしても興味深いのは、ツバメの家にはどこにもカレンダーがないのに、昨年とほぼ同じ日程で行動する生態である。ツバメは一体どのように精密で緻密な体内時計を持っているのだろうか。
 言うまでもなく人間ならばこうはいかない。すべて、記録や記憶を頼りに実施することになるのだが、健忘症気味な人間は、感覚もマヒ気味であるがゆえに、本来備わっているはずの体内時計はすっかり錆びて、しかも狂い続けた挙句に機能停止しているのである。

 昨年のメモを見ると、2007年5月16日「昨夜は母燕、巣に宿泊。本腰で孵化準備だ」と記している。母燕が巣に宿泊し始めるとだいたい2週間で子ツバメが誕生する。5月20日から本腰で孵化の準備に突入だ。

軒下のツバメの家は2軒長屋風

 6月3日の朝、巣にいる母燕の動きに変化が表われ始めた。父燕も巣を頻繁に覗くようになった。これは、第一子が誕生したのだろうと判断するに十分な親燕の動向だ。そして3日後、父&母燕は、子燕さんたちに餌を与えるべく、俊敏な妙技を私たちの目の前で華麗に披露してくれるようになった。その連携は、言うまでもなく人間さま夫婦の呼吸よりも数百倍息のあったもので、これこそが阿吽の呼吸だ、と感服してしまうのである。

 今年は一体何人家族なのだろうか、などと思いながら、軒下に目をやると、巣の上部からニョキッと子燕さんたちのくちばしが覗く。巣の上部からニョキッ〜と出てくるくちばしに親燕が餌を与えると、餌を口にした子燕は独特の可愛いスタイルでオシリを突き出して糞を親燕に託す。

 それも束の間、日に日に、いや、時間単位という短さで子燕さんたちは生育する。「いち! に!! さん!!!・・・、よん? う〜〜ん、あっ5だ!」今年も昨年同様にリトルファイブだった。

 1週間で巣からは、チーチーとリトルファイブの合唱がはっきりと聞こえ始める。父&母燕の2トップでは糞の排出をホーローしきれなくなり、子燕さんたちは、自らが巣の上部から可愛いオシリを突き出して糞の排出を始める。勿論、それを見越して落下地点には板を敷き、糞の受け皿は準備済みだ。


この可愛さを経てスクスク大きくなる

 2週間経つと親燕は、子燕に羽ばたき方を教えるかのように巣の周辺で飛び回る。それに合わせて子燕は巣の中で可愛い羽をパタパタさせる。時折、親燕は部屋の中にまで羽ばたき方を教えながら入ってくるほど、私たちに近親感を示すから一層、愛しくなる。

 3週間経つと子燕は、巣から飛び出る訓練期間に至ったことを自覚し始めて、葛藤を始める。「飛ぶ?」「いや怖い!」「まぁ〜だだよ。尻込み尻込み」。
 その子燕の心の揺れを見取る親燕は静観の構えだが、もう大丈夫だ!と判断すると「飛びなさい」と促すかのように巣の前を飛び回る。

 そして6月26日、親燕が見守るなか、リトルファイブは意を決して大空への一歩を踏み出した。

 縦横無尽とはいかないまでも天空を舞う爽快感を全身全霊で感じ取ったリトルファイブは、一日中、大空を飛び回り、時折、巣に戻っては、又、飛び出していく。概ね夕刻にはリトルファイブは巣に勢ぞろいするものの、そのまま朝まで爆睡する子燕もいれば、外泊を決め込む子燕もいる。
 強い雨になると外遊も程ほどにして巣ごもりを決め込む様子だが、リトルファイブの気持ちは大空に向いているのが見て取れる。


 燕が巣立っていく時の様子は、とても晴れやかで爽快なのと同時に、その一部始終を観せてもらった者にとっては、どこか淋しくもある。飛ぶ訓練を終えると巣離れも間近だ。

 私たちに、早めだか、お別れの挨拶でもしてくれているかのように、リトルファイブは勢ぞろいして窓際を賑やかに鳴きながら乱舞する。そして、自分たちが生まれた地を記憶の底に刻印するかのように上空をゆっくり飛びまわると、行儀よく物干し竿にしばしの間、居並ぶ。この風景を目にすると、リトルファイブとの別れが近付いたことを否応なく実感する。

 誕生した新たないのちは時折、軒下に姿を現わしながらも、少しずつ活動範囲を移動し、9月には南の空を目指して飛び立っていく。

2008年6月 記


軒下の日常【其の二/ツバメな話2009】

 何だか軒下あたりに気配がする。? 目をやると、ツバメが早くも乱舞している。3月20日のことだ。

 ???。昨年は確か4月下旬だった。宇宙では太陽の黒点が減少傾向にあるという。これは天変地異の兆候か? それとも天災が発生するのか?
 今年も無事に戻ってくれた嬉しさに「???」の気持ちが加わった。

 何よりも昨今の世の中の異変は、古くなり過ぎた現行のシステムやメカニズムに固執+しがみつき過ぎたゆえに、国際的に政治も経済もさっぱり元気がなくなったことだ。その対応や対策も決してほめられたものではない。今も古くなり過ぎた現行のシステムやメカニズムを死守しようと躍起で、阿呆な方向に歪むばかりだ。これらとの因果関係は如何に? そんな???な思いも巡る。

 しかし、阿呆な状況の???には、シンプルで真っ当なツバメさんはこたえない。

 ツバメをまじまじと見ると、羽にツヤがある。若ツバメに代変わりしたようだ。そして数日、ツバメのランデブーが始まった。

 めすツバメの動きはオテンバ極まりない。廂に逆さまになってコウモリのようにつかまってみたり、渡り廊下のカモイをすり抜けてみたり、空中でアクロバット飛行を試みたり、窓ガラスに体当たりしてみたり、開いていた家のドアから室内に飛び込んだり。やんちゃだ。何ともはや好奇心旺盛なめすツバメなのであった。

 しかし、4月21日からは、周囲の状況がインプット出来たのか、落ち着き払った様子に一転した。カップルツバメは、巣の補強や修理に着手し、藁や土をくわえてきては、築2年のお家のリホームに余念がない。

 5月連休の最終日頃からめすツバメが巣に泊まり始めた。もう卵を産み孵化準備をはじめたのだろうか??? 

 ・・・と、思って見守っていると、5月14日突然+再び、めすツバメが、廂に逆さまになってコウモリのようにつかまってみたり、渡り廊下のカモイをすり抜けてみたり、空中でアクロバット飛行を試みたり、開いていた家のドアから室内に飛び込んでみたり、オテンバ極まりない動きを再開させた。そして、巣に寄り付かなくなった。
 ??? 実は卵を生んでいなかったのか? 孵化の予行演習だったのか? ウ〜ン、今年の燕は当初より理解し難たい動きをするものだ。

 そして6月。再び軒下が騒がしくなった。見れば、燕が巣を補修改築しているではないか。好きにしてくれ! 何だか5月以来、燕に機先を制されたようで心中穏やかではない。今度は、無視することにした。

 と、6月19日の夜のこと。巣のほうに目をやると、オヨヨ、燕が泊まりこんでいる。
 今度こそ本気か? イヤイヤ、思わせぶりには翻弄されたくない・・・と思えども、気になる。
 また、燕の動向から目が離せない日々が訪れた。翻弄されても仕方ない。見守ることにしよう。否、仕方ないのではない。実は、うれしい。

 そして7月3日朝、気になっていた親燕の動きに変化が表われた。宿泊から指折り数えて2週間目だ。
 巣の中で方向を変えたり潜り込んだり、からだを浮かしたり、巣の上から中を覗き込んだり。母燕が巣を留守にすると父燕が巣をうかがう。父燕が巣に入り、暖めている。3年目で初めて見た瞬間だ。これまではずっと、母燕が暖め、父燕は見守る、と思っていたので、その光景は新鮮だ。
 時には、卒啄(そったく=殻の中のヒナと外の親鳥との嘴による孵化の補助)でもしているのかと思えるような母燕の仕草もうかがえる。

 新しいいのちが誕生したのだろう。

 それから4日後、子つばめが親の運ぶ餌を待つ時にする「ろくろっ首」状態が巣から見えてきた。毎年感じることだが、成長が早い。
 一体、今年は何人兄妹だ? にょき〜っと伸びた首と嘴を数えると、イチ、ニ、サン、ヨンだ! 昨年より一人少ないが、四人兄妹ならば立派なものだ。今年は何と命名しようか。

 これまでが「リトルファイブ」だったからリトルフォー? つまらない。そうだ、単純に四子(よんこ)にしよう。

 当初はオテンバだった母燕は、出産を終えると面倒見のいい親燕に変身した。一週間ずっと巣に泊まり込みだ。とは言っても、子燕が日に日に大きくなるので、母燕は5日目くらいから巣から身をはみだしての宿泊だ。おそらく熟睡はしないのだろう。7月11日の夜から母燕は泊まり込みから自らを解放したようで、巣は子燕だけになった。

 そして一週間。子燕「よんこ」はすっかり大きくなり、巣立ち一歩手前にまで成長した。

 よんこの巣のまわりでは早朝、親燕だけではなく、多くの燕仲間さんたちが飛び方を教えたり、一緒に飛ぼうと催促するかのように、賑やかに乱舞する光景が目につく。
 巣から飛び出す日。その日を迎えるのもあと僅かになった。


巣からはみだすくらい大きくなった。
寝る時は逆向き、全員お尻を突き出して眠る。
あたかも剣山に突き刺した生け花のようだ。

 7月25日、県内は記録的豪雨で、雨が降り続いているにもかかわらず、小降りになった途端に、一羽二羽三羽と巣から子燕が飛び出した。あと一羽、巣から飛び出すと全員、初フライトはOKとなる。


(白いスジは雨)

 そして7月27日、梅雨前線が移動した晴れやかな朝、意を決した一羽も元気に巣から飛び出した。全員、初フライトはめでたく成功だ。

つづく

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