梅
「やわらちゃんになった気分だった」というのは、梅干し作りで知事賞をもらったというMさん。部屋には町での最優秀賞、優秀賞の賞状やタテが数えきれないくらい掛けてある。県の知事賞が永年の夢であったMさんにとって、知事賞のうれしさは、「やわらちゃん」の金メダル以上だったのかも知れない。
梅干し農家のMさんの漬ける梅干しは、一級品である。美味しい! 10パーセントの塩だけで、カビらせず、あれだけのまろやかさを作り出せるのは、名人の領域だ。
名人の秘訣がどこにあるのか探ってみるに、まず梅農家だから梅干し作りに一番適した時期に梅干しを収穫できることは、なんといっても大きい。素材が新鮮で質がよく、漬ける時期を人間に合わさないで、梅に合わせているのだ。 次に三日干しの時、太陽の陽射しが強いため水分が取られやすいので透明のビニールをかけ、梅干しにとって適度な光線にしている。ちょうど母親が赤児を育て、あつかっているようでもある。漬け方や桶、塩なんかは、見た目には格別、他の人と変わらない。
収穫時を梅に合わせたり、ビニールをかけたり、常に主体になっているのは自分でなく梅。 Mさんを見ていると、梅だけでなく畑で作っている野菜すべてに対してそんな感じだ。 相手に口や言葉は無いけれど、まるで「相手がどうしたいのか、どうしてほしいのか」ちゃんと分かっている風なのである。こんなところが名人に通じて行くんだろうと思った。
こんなMさんの梅干しがもっと早く知事賞をとってもなんらおかしくはないのにと長年不思議だったがその謎も解けた。
『賞』というものは、その賞を出す審査員以上のものは、その審査員にはわからないということが分かった。 以前、Mさんが梅干しを作るのに、塩化ナトリウム99%以上の塩を使った梅干しと、ミネラルを含んだ塩を使った梅干しを審査に出した時、必ず塩化ナトリウム99%の塩を使った方しか賞に入らなかったという。一度化学調味料に慣れてしまうとなかなか本来の素材の持つ味が分からなくなるのと似たようなことだ。これは、「ノーベル賞」以上に素晴らしい発見をしている人が世の中には存在するのに、ノーベル賞を審査する人以上の価値観での発見や発明などは、到底、目にもとまらないというのとほぼ同じだ。
もう一つ、表には見えてない話で、「梅」といえば、「紀州」。これだけ有名になれば名前だけでも売れる。紀州からMさんの梅産地に仲買人が来るという。JAは売れ残るより紀州の名前で売ってもらった方がいい。仲買人は紀州より質のいい梅を紀州産として全国に出せる。両者で商談成立となる。これと似た話は梅だけでなく「お茶」なんかも良く聞く。勿論、お米も例外ではない。
消費者の味覚を正常に戻すことが、本来の地域経済を正常に戻す近道なのかも知れない。(2001年1月27日記)
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