人口密集地にある世界一危険な米軍普天間飛行場の移設は宙に浮いたままだ。


いまも変わらない日本の捨て石・沖縄。
世界一危険な基地「普天間飛行場」移設問題、解決せず、
政府と沖縄の溝、ますます深まる。
―――嘉手納統合の可能性浮上―――

 日米両政府が米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の全面返還を合意してから15年が経過した。鳩山前政権末期の日米合意(2010年5月28日)から1年になる。6月には日米安全保障協議委員会(2プラス2)を控えている。しかし、返還作業はまったく進んでいない。

 米軍普天間飛行場の県外・海外移設を求める県と、名護市辺野古への移設を推進する政府。協議を繰り返せば繰り返すほど議論は噛み合わず、溝が深まるばかりだ。

 そんな中で、日米合意履行を繰り返し表明する菅政権は、辺野古に建設する滑走路を「埋め立て」方式とすることで米側と合意し、滑走路を「V字形」にすることも決めた。場所も形状も工法も自公政権が米側と合意した内容とまったく同じだ。
 国民の多くは、日本全体が日米安保の恩恵を享受しているのに沖縄だけが過重な負担を背負い続けるのは好ましくないと思っている。しかし、菅政権は、自公政権同様に、沖縄が持つ軍事面の地理的優位性を語り、日米合意を前提にした方針を次々と確定させていく。日米合意の2014年までの辺野古への移設が実現すると信じている政治家は誰一人いないにもかかわらずにだ。

 現在の沖縄県知事、沖縄県議会、名護市長、名護市議会、県内全市町村長はそろって県外・海外移設を求めており、基地の島沖縄の状態を強要され続けてきた沖縄住民の憤りと反発は根強い。

 政府は暗に「辺野古に移設しなければ、普天間が固定化される」と脅しともとれる解釈をちらつかせ、揺さぶりをかけてきた。
 しかし、最近は米国内でも「辺野古移設は実現せず、普天間飛行場の固定化もあり得ず、日米合意の実現は困難だ」とみている人は多い。むしろ、現実的選択肢としては、米軍嘉手納基地への統合、もしくは、時間がかかっても、韓国やフィリピンへの分散や、米太平洋軍が計画するグアム移転に編入、これらの中から検討されるだろうとの推測が大半を占める。

 特に3月11日以降、日本の状況は急変した。東日本大震災を受けた日本の厳しい財政状況は深刻だ。資金をつぎ込んで新たな代替施設を造ることは懸命な施策とは言えない。

 にもかかわらず、菅政権は、米軍普天間飛行場移設問題が米軍嘉手納基地以南の施設返還や在沖縄米海兵隊のグアム移転など、在日米軍再編ロードマップ(行程表)の実現に悪影響を与えかねないと危機感を抱き続け、普天間返還と辺野古移設をパッケージにしながら日米合意に基づいて移設方針を具体化しようと急ぐ。
 米国は、日本が見直しを求めてくるのならまだしも、菅政権が頑として「辺野古移設だ」と言うのだから、「これを再検討しよう」とは言い難いし、「米国にあまり媚びるな」とも言えない。

 米国に媚びるその姿勢は、沖縄基地問題解決に向けてのものではなく、政権維持ありきゆえ、ということは、誰の目にも露骨に映る。

 そうすればするだけ、菅政権と沖縄の距離が、埋めがたいほどに広がり続ける。

 一部の政治家は「何も案を出さず県外・国外と言っているだけでは普天間問題は解決しない」「日米合意では、沖縄の負担軽減策の一環として訓練を含め、米軍活動の沖縄県外への移転を拡充するとうたっている。ならば、これを普天間飛行場問題に適用し、移設が実現するまでは、普天間の機能を県外に分散・移転する方策も、真剣に探る必要がある」と具体策を提示する必要性を強調する。しかし、全国の自治体が国内移設に反対している現状では説得力に欠ける。
 むしろ、国内移設を言い出すと、米国が最も嫌がる基地問題の全国への飛び火、果ては安保問題の是非論再燃が起こることにもなりかねない。右のものを左に、上のものを下に移すのとはわけが違っている。

 自民党政権から民主党政権に変わっても、基地沖縄の状況には変わる気配がない。むしろ、いまも変わらないのが日本の捨て石となり続けている「基地の島・沖縄」の厳しい現実だ。

 例えば政府は、米海兵隊の新型垂直離着陸輸送機「MV22オスプレイ」の沖縄への配備を容認する方針を既に固めている。
 同機は開発段階で墜落死亡事故が相次ぎ、安全性や騒音問題が指摘されていることから、沖縄側からの反発を極力回避するために、政府は、計画自体の存在を認めていなかった。
 しかし、2010年9月に米国防総省の報道官が「老朽化している中型ヘリCH46をオスプレイと交代させる」と明言、米国も2012年10月までには在沖縄部隊に配備したい、と要請していた。

 菅政権は、近く開催する外務・防衛閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)で米側に、オスプレイの沖縄への配備容認を伝える考えだ。

 配備先は、米軍普天間飛行場代替施設が想定されていたが、移設のめどが立っていないため、同飛行場となる可能性も否定できなくなっている。
 沖縄県知事は「事故の多いものを普天間という街の真ん中に持ってくるのは、常識はずれもいいところだ」と強く反発している。

【記:2011.5.11】

○嘉手納統合の可能性浮上○
米上院軍事委員会のレビン委員長(民主党)とマケイン共和党筆頭委員は5月11日、2006年の合意時から総費用が膨張し続ける米軍普天間飛行場移設に関する日米両政府の現行計画は「非現実的で、機能しない」として、米軍嘉手納基地への統合を中心とする新たな移設案の検討を国防総省に求めたとの声明を発表した。
 声明では、政治状況が変化したのに加え、東日本大震災を受けた日本の厳しい財政状況も考慮する必要がある、とした上で「費用負担が厳しい状況で新たな代替施設を造るより、実現の可能性として、普天間所属海兵隊の嘉手納基地移転についても検証すべきだ」とした。同時に嘉手納基地の一部機能のグアム移転も提案した。

 これについて米国防総省の副報道官などは「嘉手納統合は過去に検討されたもので、現行計画を変更することにはならない」と、提案に否定的な姿勢を示している。

 一方、普天間飛行場の県外移設が持論の仲井真沖縄県知事は、この件に関して「現実的かどうか疑義があるが、嘉手納の空軍戦闘機をどこかに散らして、現在より嘉手納基地の騒音が明らかに減る保証があるならば案を検討する余地はある」との考えを示した。

嘉手納町議会は5月17日、米軍嘉手納基地への統合について「統合案は、激しい米軍機の爆音で生活環境が破壊され、負担の大きい町民と県民にさらなる犠牲を強いる。到底容認できない」「統合ではなく、普天間飛行場の県外、国外移設を求める」との抗議決議と意見書を全会一致で可決した。決議文は米軍事委員長に、意見書は日本政府に送付する。隣接する北谷町議会も同様の抗議決議と意見書案を可決する。

北沢防衛相は5月17日の参院外交防衛委員会で、2014年までに普天間飛行場を移設するとした06年5月の日米合意について「沖縄との調整が長引いており、完成はなかなか厳しい」と実現は難しいとの認識を示した。米軍嘉手納基地への統合については「嘉手納基地が担うアジア太平洋の安全保障上、極めて勢力をそぐ形になってよろしくない」との考えを示した。

日米両政府は5月20日、6月下旬に開催予定の外務、防衛担当閣僚の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、米軍普天間飛行場を2014年までに移設するとした期限を正式に撤回する方針を固めた。
 2プラス2では、新たな期限は定めないものの、日本政府は「移設先は同県名護市辺野古で変更しない」「代替施設の形状は滑走路2本のV字形」としたうえで、「できるだけ早期に」などの表現を盛り込みたい模様だ。

米軍嘉手納基地への統合を中心とする新たな移設案の検討を国防総省に求めている米上院のレビン軍事委員長は5月26日、在日米軍再編における日米両政府の負担総額が291億ドル(約2兆4000億円)に上るとした米会計監査院(GAO)の報告書を受け、「財政への懸念が裏付けられた」「財政面、政治面、戦略面の現実に合わせるのが最も国益にかなうということが明確になった」と指摘し、現行計画の見直しを改めて求める声明を出した。マケイン筆頭委員も「税金投入を中断すべきことが強く正当化された」と述べた。


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