海上保安庁の調査で、東日本大震災により、宮城県の牡鹿半島沖約130キロの震源のほぼ真上の観測点(海底基準点)が地震後、東南東に約24メートル移動し、約3メートル隆起していたことが分かった。
国内外の過去のデータでは20メートルを超える海底の地殻変動は確認できていないことから、過去最大規模とみられる。
陸上では国土地理院が、牡鹿半島で観測史上最大となる東南東に約5.3メートルの移動と約1.2メートルの沈降を確認している。海底ではこの3〜4倍の地殻変動があったことになる。
海保は、観測機器を設置していた海底基準点の「宮城沖1」「宮城沖2」「福島沖」の3カ所で3月28〜29日の2日間で洋上の測量船から音波を発信して観測機器の位置を確認した。海保は2000年から太平洋側の海域に約100キロ間隔で計16カ所の海底基準点を設けて観測している。
震源のほぼ真上にある「宮城沖1」で約24メートルの移動と約3メートルの隆起、震源の約40キロ陸側の「宮城沖2」では約15メートルの移動と0.6メートルの沈降を観測した。「福島沖」は約5メートル動いていた。
沖側の地殻が跳ね上がり、陸側が沈み込むプレート境界型地震のメカニズムも裏付けられた。
海側と陸側のプレート境界の震源域では、浅い部分と深い部分を往復するように数回に分かれて破壊が進んだ。その破壊は、大津波と、大きな揺れを引き起こす性質のものに分かれ、浅い部分と深い部分で性質の違う破壊が起きたことも推察された。
この状態は、東大地震学チームでの解析で、より詳しく判明した。
▼東大地震学チームの解析によると、発生直後3秒間に地下25キロ付近で断層の破壊が始まり、約40秒後には深部で破壊が進んだ。その後、約60秒で破壊の方向が浅いところに向かった。そして、一気に浅いところから海底に達するまで破壊が進んだ。この破壊が急激だったため、蓄積されたひずみ量以上に地殻が動いた。この「すべり過ぎ」現象が、巨大な津波を引き起こした、と分析した。チームは世界各地の地震計で観測された地震波から、最初の100秒の破壊過程を解析した。
津波による浸水面積は、国土地理院の調査で、青森、岩手、宮城、福島で、約450平方キロメートル強に達していることも分かった。これは、山の手線内側の約7倍弱にものぼる。
浸水面積は、宮城県で約300平方キロメートル、福島県で約70平方キロメートル、岩手県で約50平方キロメートル、青森県で3平方キロメートル。浸水被害が広い市町村は、宮城県石巻市、宮城県東松島市、宮城県亘理町、宮城県岩沼市、仙台市若林区、福島県相馬市、福島県南相馬市、宮城県名取市で各40〜30平方キロメートルだった。
岩手、宮城、福島3県の河川では堤防や護岸の損壊が約1800カ所にのぼった。
また、関東地方から東北地方まで液状化現象が過去最大規模の広範囲にわたって発生していたことも地盤工学会の現地調査で分かった。
液状化が確認されたのは、千葉県浦安市、千葉県我孫子市、東京都江東区新木場、横浜市金沢区の八景島周辺、茨城県ひたちなか市、宮城県北部を流れる江合川周辺などで、主に東京湾沿岸での液状化被害が目立った。
浦安市では、埋め立て地を中心に面積の約4分の3にあたる1455ヘクタールで液状化が発生し、8戸が全壊、466戸が半壊した。
液状化は、埋め立て地や河口で起きやすいとされているが、今回もそれが裏付けられた。水分を含んだ砂質の地盤が地震の震動を受けて液体のように動く現象で、阪神・淡路大震災でも神戸沖の人工島・ポートアイランドで建物が傾くなどの被害があった。
▼明治三陸地震/昭和三陸地震▼
明治三陸地震は1896年に起きた。マグニチュード8クラスの地震で30メートルを超える大津波が発生し、北海道から宮城県の太平洋岸で約2万2000人の死者を出した。
昭和三陸地震は1933年に起きた。マグニチュード8クラスの地震で20メートルを超える津波が発生し、3000人を超す死者・行方不明者が出た。
いずれも三陸地方に大きな津波被害をもたらしたが、東日本大震災で発生した大津波は、国内で過去最大の津波とされてきた明治三陸地震を超える津波の規模だった。
▼余震〜新たな地震の可能性も▼
宮城県沖で4月7日深夜に起きたマグニチュード7.4、震度6強の地震は、これまでの余震と比べて震源が陸寄りだったため、東日本大震災で最大級の余震となった。
巨大地震の余震活動は、岩手県沖から茨城県沖の広い範囲で継続している。震源域から遠く離れた場所でも地震活動が活発化しており、長野県北部、静岡県東部、秋田県内陸北部で震度5強以上が相次いだ。ひずみが蓄積された場所などで今後、数年間は地震が誘発される可能性もあり、東日本大震災の震源域の東側で、新たにマグニチュード8クラスの巨大地震が発生する可能性も指摘されている。
また、余震活動により、長野・岐阜県にまたがる焼岳や富士山、箱根山、阿蘇山など、北海道から九州にかけての20火山で平常時よりも地震が増加したことから、気象庁地震火山部は「歴史的には巨大地震から数か月後に火山が噴火した例もあり、注意深く監視していきたい」と話している。噴火の兆候はみられず、地震の数も減ってはいるが、一部の火山ではまだ大震災以前よりも多いという。
▼阿蘇山ごく小規模な噴火▼
5月16日午前10時ごろ熊本県・阿蘇山の中岳第1火口でごく小規模な噴火が発生、灰白色の噴煙が火口縁から高さ約500メートルまで上がったため、気象庁は、中岳第1火口の火山活動が高まっていると判断し、噴火警戒レベルを「平常」の1から「火口周辺規制」の2に引き上げた。レベル引き上げは阿蘇山に噴火警戒レベルが導入された2007年12月以来初。火口からおおむね1キロ程度の範囲に、大きな噴石を飛ばす噴火の可能性があるという。
【関連記事】
地殻変動で「日本水準原点」が沈下した可能性
東日本大震災に伴なう地殻の変動で、東京・永田町にある「日本水準原点」が沈下した可能性が出ている。正確な基準は震災復興にも欠かせないため、国土地理院は再測量の作業に入る。
日本水準原点は、油壺験潮場(神奈川県三浦市)で観測する平均海面を標高0メートルとして導き出し、全国のあらゆる標高の基準になっている。10分の1ミリの精度が必要なためGPSでは観測できないことから、再測量は、標尺や計測機器を使う手法で、油壺から永田町まで道路沿いに水準点をたどっていく作業になる。
水準原点は国会前庭園にある憲政記念館構内にあり、1891年に参謀本部陸地測量部が「標庫」を建てた。ローマ神殿を模した建物には標高24.4140メートルを示す水晶板が固定されている。建造当時は24.500メートルだったが1923年の関東大震災に伴なう地殻変動で改定された経緯がある。
東日本大震災では垂直方向だけでなく、水平方向の基準となっている「日本経緯度原点」(東京都港区)もずれた可能性があり、併せて復旧測量が行なわれる。
国土地理院は震災後、衛星利用測位システム(GPS)で全国の水準点を観測し、東北から関東地方の広い範囲で沈下を確認した。宮城県の牡鹿半島では観測史上最大の1.2メートルの沈下を記録。首都圏でも沈下したことが分かっている。
地盤沈下で海抜ゼロメートル地帯拡大
国土交通省は4月28日、東日本大震災による地殻変動に伴なう仙台平野の地盤沈下の状況を「平均海面の水位よりも低い海抜ゼロメートル以下の土地の面積は、震災前の3平方キロに対し、震災後は5.3倍の16平方キロに増加した」と発表した。海抜ゼロメートル以下の地域は、名取市の仙台空港南側から阿武隈川河口(岩沼市、亘理町)にかけての地域などで増加した。大潮の満潮位より低い土地も、震災前の32平方キロから1.8倍の56平方キロに拡大した。
太平洋沿岸の仙台市南部から宮城県山元町にかけて上空から土地の高さをレーザー計測し、震災前と比べた。
4県被害14兆円超え、沿岸部総資産22%喪失
日本政策投資銀行東北支店は4月26日、岩手、宮城、福島、茨城計4県の東日本大震災の被害額推計をまとめた。
政投銀は港や道路などのインフラ、耐久消費財を除いた個人資産、製造業者の設備類など総合した資産をベースに、住宅被害数や企業の被災率を乗じるなどして被害額を算出した。全体では被害額は16兆3730億円にのぼった。東北3県の沿岸部では金額換算で、住宅やインフラなど総資産の22.1%が失われた。
県別では宮城県の被害額が最も多く6兆4920億円で、岩手県4兆2760億円、福島県3兆1290億円と続く。地域別の総資産に占める被害率では岩手県沿岸部が最も多く47.3%で資産のほぼ半分を失った。被害額は3兆5220億円に達した。沿岸と内陸に分けた地域別では沿岸部が3県の合計で10兆2780億円で、内陸部の3兆6190億円を大きく上回り、津波被害の大きさを裏付けた。
東北大学、最先端の研究設備、加速器が壊れる
東日本大震災で岩手、宮城、福島、茨城にある主要国公立大学が受けた研究設備などの被害額が900億円を超える見通しだ。東北大の被害額が突出しており、研究設備の被害額が約352億円にのぼる。電子ビームを使って陽子や中間子の構造を解析する国内の大学で最大規模の加速器も壊れた。復旧の見通しは立っていない。建物の被害額約440億円を加えると790億円を超える。
東北大に次ぐ被害規模の筑波大(茨城県)でも加速器装置が壊れた。建物と研究設備の被害額は計約70億円にのぼるとみられる。
金属工学など先端技術の国内有数の研究拠点でもあるため、文科省は「本格復旧に向け改修改築を急ぎたい」とするが、災害範囲が広く、情報収集に時間がかかるため思うように計画が立てられない状況だ。被害額は今後さらに拡大する可能性が高い。
気仙沼市の金鉱山廃鉱から有害物質のヒ素流出
東日本大震災による土砂崩れで、宮城県気仙沼市の金鉱山廃鉱(戦前に年間約1トンの金を産出、76年に資源枯渇で閉山)から有害物質のヒ素を含む大量の土砂が住宅地に流れ出し、一部の住民が避難していることが分かった。
付近の井戸水や沢からは環境基準の最大24倍のヒ素(1リットルあたり0.24ミリグラム)が検出された。ヒ素は鉱滓1キロあたり約200ミリグラム含まれ、5〜50ミリグラムを摂取すると中毒症状を起こすという。
土砂崩れがあったのは気仙沼市本吉町の大谷鉱山の堆積場で、3月11日の地震で液状化し、ヒ素を含む鉱滓の土砂41万立方メートルのうち、5万立方メートルが敷地外に流出して道路を塞いだ。そして、津波が押し寄せ、土砂が住宅地や田畑など約5ヘクタールに広がり、赤牛漁港付近の海まで流れているのが確認された。
親会社のJX日鉱日石金属は土砂を回収し、住民説明会を開く。
長野県栄村も見捨てないで
世の中の関心が東日本大震災と原発危機に向いているなか、震度6強の地震で被害を受けた長野県栄村の村長が4月7日、総務、国土交通、環境、農林水産の各省を訪れ、「東日本大震災の被災地と同様の支援措置を講じるよう」に要請した。村長は、村内の国道の早期復旧に向けた予算措置や、被災者生活再建支援法に基づく支援の拡充などを求めた。