【軽口コラム】
もうすっかり忘れていた?
知っているようでよく分かっていなかった?
ダイナミックに融通しあえない電気
東日本大震災で発生した原発の危機。私たちは、このことから多くの事を学びつつある。
原発の是非を筆頭に、危機管理、想定、東電体質等々を語り始めれば、百人百様の言いぶん、言いわけ、利害、保身、責め、理屈、屁理屈等々が数限り無く出てくる。
ここでは、それをひとまず置いておこう。
誰しもが、知っているようでよく分かっていなかった、あるいは、もうすっかり忘れていた事が、ひとつ、電力不足や計画停電という事態を前に、私たちの前にぽっかり出現した。
それは、関西圏や西日本圏が60ヘルツで関東圏や東日本圏が50ヘルツという電力の存在だ。
誰もが教科書などで習っていたことだが、だからと言って、どうってことは無かった。百ボルトと二百ボルトの差では困ることも多いのだろうが、電流がどうであろうが、電気は通っていた。
しかし、この窮地で知ることになる。60ヘルツと50ヘルツでは直接、電気を融通しあえない、ということだ。そして、電気を融通しあうためには、変電・変換システムを通して送る必要があるということだ。
それくらい分かっている、という人は多い。
しかし、この窮地で知ることになる。周波数変換所設備は3箇所しかなく、合わせても100万キロワット程度しか融通しあえない、ということだ。
えっ、何で? と、この高度文明社会に生きている多くの者は、不思議がった。
何でぇ?と問われても、誰も明確な答えを持ち合わせてはいない。
「そうなんだから、仕方ない」というのが関の山だ。
西が60ヘルツを選び、東が50ヘルツを選んだ。
60ヘルツがアメリカの技術で、50ヘルツがドイツの技術。
ここには電力に絡む「大きな利権」があった。と、話しはじめると「また始まった」「鬱陶しい」と言う人も多い。
利権もあったし、都合もあった、という程度にとどめておこう。
「フォッサマグナに沿って分けられた」という程度が無難だ。
フォッサマグナって何だっけ? と思った人は多い。もうすっかり忘れていたことだ。
フォッサマグナとはラテン語で「大きな溝」という意味。
日本の主要な地溝帯の一つで、地質学においては東北日本と西南日本の境目とされる地帯。
日本の真ん中を縦走する帯状の火山地帯で中央地溝帯とも呼ばれる。
西縁を糸魚川-静岡構造線、東縁を新発田―小出構造線(直江津−平塚構造線/柏崎−千葉構造線とも言われる)がはしっている。
この大きな溝を境界線にして、西日本圏と東日本圏がある。
国境に例えるなら、フォッサマグナを境界にして電気の国境が敷かれたということだ。
そこにある3箇所の周波数変換所設備は、電源開発佐久間周波数変換所、東京電力新信濃変電所、中部電力東清水変電所。
しかし、これが有っても、電力不足の緊急時には間に合わないのである。
そんな不思議な国ニッポンで暮らしていることを東日本大震災で発生した原発の危機で知った私たちである。
新しい電力網の「スマートグリッド (smart grid) 」に本格的に乗り出さないのは日本政府くらいのものなのだから、経済産業省の事務次官が言ったという「現状で充分だ、送電環境はこれでいい」の遅れた認識のなかで、ダイナミックに融通しあえないまま、60ヘルツと50ヘルツで暮らすしかないのである。
再生可能エネルギーを云々しても送電網の開放や電力の自由化に向かわない限り、電力会社の独占を守る60ヘルツと50ヘルツ状態は永遠に続くのである。
「だから何だって?」と言われても困る。
そんな不思議な国ニッポンで暮らしているのだから。
▲50メガヘルツ、60メガヘルツと書かれていますが、50ヘルツ、60ヘルツね間違いです。
と、Sun, 19 Jun 2011 11:32:06 +0900に、
ご観覧の方からご指摘頂きましたのでメガヘルツをヘルツに書き改めました。
ご指摘ありがとうございました。(ニュース漂流編集局)
【関連記事】電力の使用制限令の???。
夏の電力不足による大規模停電を避けるために政府は、電力の使用制限令を発動する方針を固めたという。
何でも「電気事業法27条に基づく電力使用制限令」というのがあるそうだ。これが発動されると、石油危機の1974年以来、37年ぶりになるらしい。
えっ、何で? と思う人は多い。石油危機は世界的なことで、日本全体での対応もやむを得ない事態だった。
しかし、今回の事態は、東電の原発危機に起因する東日本の電力不足だ。他の電力会社から融通を受けることが出来れば、解消出来る話で、電力の使用制限令発動は、おこがましい。
そもそも「融通しあえない電気」50ヘルツ・60ヘルツの電力の国境があるからに他ならない。非常時に、こんな情けない事態になるのは、基本政策が出来ていない証しでもある。
なのに「大企業など大口契約者を対象に7月頃から3か月程度、前年の最大使用電力より25〜30%の削減を昼間の時間帯に求める方向だ」「電力使用がピークを迎える7〜9月頃の日中に、最大使用電力の削減を求める」と、まことしやかに言う。
これはもはや政治とは言えない。
国民主権であるならば、国民の側から政府に命令を発動するのも筋違いではない。その内容は、50ヘルツ・60ヘルツの電力の国境を乗り越え「ダイナミックに融通しあえる電気法」を早急につくり、対処せよ、だ。出来なければ、国民の側から罰を下すのもありだ。電力の使用制限令に対して故意に違反すると100万円以下の罰金が科されるのであれば、旧態依然とした利権を守るための電力送電線網体制を続けようとする政府に対して、主権者の国民の側から、鉄拳を下す、というのもこの際、ありだろう。
「些少しか融通しあえない電気」の存在がある限り、情けない話が毎度発生することになる。少なくとも、3箇所の周波数変換所設備を早急にバージョンアップする必要はある。
それをしてからの話だ。電力の使用制限令を発動するのは。
政府が自主的な取り組みを促すために「中小企業20%、家庭15%」の節電努力目標も検討しているというのならば、逆に、国民の側から政府に取り組み目標を差し出そう。「3箇所の周波数変換所設備を個々に50%能力アップすること」を。そして、新しい電力網の「スマートグリッド」に本格的に乗り出しなさい、と諭すこともしようではないか。
電力需給対策を正式決定
政府は5月13日、被災した東京電力、東北電力管内の今夏の使用電力を、企業、家庭とも昨夏のピーク時より一律15%カットする節電目標などを正式に決めた。大口需要家に対しては電力の使用制限令を発動して削減目標の実現に強制力をもたせるが小口需要家や家庭は自主的な取り組みに任せる。
使用制限令は、電気事業法に基づき、契約電力が500キロワット以上の大口需要家に対し、平日の午前9時〜午後8時に発動する。
今夏の需要見通しを東電で6000万キロワット、東北電で1480万キロワットとした。供給力見通しは東電が5620万キロワット、東北電が1230万キロワットとした。東北電に対し、東電から140万キロワットを融通する。中部電の浜岡原発停止に伴なって融通停止となった東電への75万キロワット分は中部電以外の西日本の電力会社が融通する。計画停電は実施しない。
病院や鉄道、被災地の各県、被災地の避難所や公共施設などは、使用制限の適用除外とするが、送電線網の開放、並びに新しい電力網の「スマートグリッド」に本格的に乗り出す気配はない。
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