福島第一原発の事故を受けて、ドイツのメルケル首相は、早期に脱原発へ政策転換を図る方針を示した。
メルケル首相は、国内16州(特別市含む)の州首相や野党もまじえてエネルギー政策の見直しについて会談するなど、動きを活発化させている。
早期に脱原発へ政策転換を図る方針を示した同首相は、再生可能エネルギーへの転換を促進する新政策について「6月上旬に閣議決定し、同月中旬までに連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)で関連法の改正を目指す」としている。
既にドイツ政府は3月中旬、ドイツ国内原発計17基のうち、旧式の7基など計8基の一時停止を発表すると共に、既存原発の稼働期間を延長する計画を中止する方向で協議を進めている。
今後は、風力や太陽光などにとどまらず、バイオマスなど、あらゆる再生可能エネルギーの割合高め、これらを電力供給量のうち、2010年末の約16%から、20年には40%に引き上げる方針だ。
ドイツは、太陽光発電の総設備容量が世界一位で、EU諸国のモデルにもなっていることから、脱原発国家のリーダーシップ発揮に期待が寄せられている。
ドイツ沖のバルト海には、国家プロジェクトで風力タービン21基の洋上風力発電所を構え、さらに、北海やバルト海で増設計画をすすめる。これらがすべて稼動すると、発電量は原発8基分に相当するといわれている。
言うだけで行動が一向に伴わない日本とは大きく違い、ドイツでは、過去から着実に取り組みを深化させる具体的で開かれた取り組みがあった。それが効を奏して、電力分野での自然エネルギー活用は、年々増加傾向にある。
太陽光発電や風力など、国家プロジェクトの取り組みのみならず、バイオマス各種、地域暖房など、幅広く下支えをしている動きとして、自然エネルギー事業を展開する地域密着型の法人や組合もある。
取り組みも多様且つ個性的で、なかには、農家が、副収入源としてバイオガス発電を始めるところもあるほどだ。それも、試験的なものではなく、具体的に「バイオエネルギー村」の普及に取り組む農村が既に、約60村以上はあるとされている。そして、バイオマスを中心とした自然エネルギー源で熱と電気を自給するばかりではなく、安定的に売電し、地域で自然エネルギー事業を運営するまでに至っている。
それらが可能になる背景には、住民一人ひとりの意識が高いという事はもとより、電力の固定価格買取制度や銀行による自然エネルギー設備への充実した融資制度がある。
脱原発をすすめるにはまだ課題が多いものの、ドイツには、民間の取り組みを下支えする仕組みが世界に先駆けて整えられていることから、課題をどう乗り越えるかも含めて今後の取り組みが注目される。
▼08年末の太陽光発電の総設備容量はドイツが1位で540万キロワット、2位がスペインで230万キロワット、日本は197万キロワットでドイツのわずか40%弱という状況だ。
固定価格買取制度関連記事バックナンバー:【コラム】掛け声とお題目ばかりの日本、太陽光発電で他国に大きく水をあけられた。
▼2010年の世界の発電容量は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーが原発を初めて逆転したとする世界の原子力産業に関する報告書を、米シンクタンク「ワールドウオッチ研究所」がまとめた。
福島第一原発事故の影響で廃炉になる原発が多くなり、新設も大幅には増えず、再生可能エネルギーとの差はさらに開くとみている。
原発は、安全規制が厳しくなったことや建設費用の増加で1980年代後半から伸び悩み、2010年の発電容量は3億7500万キロワット。一方、再生可能エネルギーは地球温暖化対策で注目されて急激に増加し、風力と太陽、バイオマス、小規模水力の合計は3億8100万キロワットになり、初めて原発を上回った。
報告書によると、世界で運転中の原発は30カ国で437基、建設中は14カ国で64基(2011年4月1日現在)。運転開始から平均で26年が経過し、このうち145基は、2020年までに運転開始から40年を迎える。
福島第一原発事故の影響で、40年を超えて運転する原発は限定的になるとみられることから、中国などで今後、新たに建設される分を見込んでも、世界の原発の総数は減少すると予測している。
ワールドウオッチ研究所は「原子力ルネサンスで原発が増えると思うのは間違い。40年を超える原発の運転を認めても、いずれ数は減ることになる」と判断している。
現在、世界の総発電量は、石炭、天然ガス、石油などの火力発電が半分以上を占め、原発は13%程度だ。
【関連記事】
スイスも脱原発へ
福島第一原発事故を受けて原子力政策の見直しを行なっていたスイス政府は5月25日、将来的に「脱原発」を目指す方針を閣議決定した。新設を禁止し、国内4カ所で稼働している原子炉5基は耐用年数を迎えるまでに順次廃止。今後は、省エネ推進や水力、再生可能エネルギー開発で対応する。
スイス政府は「原発のコストは今後上昇するとみられ、長期的には再生可能エネルギーの競争力に及ばない」と断定し、立法化する。
スイスの原発による発電シェアは約4割だった。
伊、原発に決別。原発再開の是非、国民投票で「原発再開反対派」が圧勝。
原発再開の是非を問い、6月12〜13日に行なわれたイタリアの国民投票は、50%を超える投票率と90%を超える原発再開反対票のもとで、原発に決別することが確実な情勢になった。
福島第一原発事故後、原発をめぐる国民投票が行なわれたのは世界で初めてで、イタリアの反原発世論が明確に示された形となった。
投票終了を待たずに「イタリアはおそらく原発にさよならを言わなければならないし、再生可能なエネルギー分野の開発に取り組む必要があるだろう」と述べていたベルルスコーニ首相は、この結果を受けて13日「政府と議会は国民投票の判断を完全に受け入れる義務がある」との声明を発表した。
イタリアは旧ソ連のチェルノブイリ原発事故を受けて1987年に国民投票で原発廃止を決定した。しかしエネルギー需要の不安定さなどから、ベルルスコーニ政権は原発再開の方針を表明。2011年1月、憲法裁判所が野党の求めに応じて国民投票実施を認める判断を下していた。
世界の47カ国・地域で実施した原発の世論調査結果
福島第一原発事故を受けて各国の世論調査機関が加盟する「WIN―ギャラップ・インターナショナル」(スイス・チューリヒ)が世界の47カ国・地域で実施した原発の是非の世論調査結果では、原発反対が43%、原発賛成が49%となった。
調査は3月21日〜4月10日、日本やパキスタンを含むアジア各国のほか、北南米、欧州、アフリカなど計約3万4000人を対象に行なわれた。
事故前は原発反対が32%、原発賛成が57%だったが、日本やカナダ、サウジアラビアなど8つの国・地域では、事故後に賛否が逆転して反対が上回った。
原子力エネルギーの利用に関するキエフ・サミット
旧ソ連チェルノブイリ原発事故から25年となるのに合わせ、同原発の地元ウクライナの首都キエフで4月19日、「安全で革新的な原子力エネルギーの利用に関するキエフ・サミット」が開催された。
閉鎖したチェルノブイリ原発の将来の安全性を確保するための資金計7億4000万ユーロ(約868億円)の拠出について協議する支援国会合が、キエフ・サミットに先駆けて同日、50以上の国・機構が参加して開催され、どのように資金支援するかが論じ合われた。
1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原発4号機の爆発事故では、放射性物質の漏れを食い止めるためコンクリート製の「石棺」で4号機を覆った。しかし、石棺は老朽化が進んだため、これをさらに覆う「鉄棺」を2015年までに完成させる。
この建設には、15億4000万ユーロ(約1806億円)が必要で、さらに1〜3号機の使用済み核燃料を貯蔵する施設に2億5500万ユーロが必要とされており、これまで基金名目での資金集めが続けられたが、7億4000万ユーロの不足になっている。
原発国家の日本も拠出するのが一般的だが、東日本大震災で巨額の復興資金が必要になるため、出資対応が難しいのが実状だ。一方、EU(欧州連合)は1億1000万ユーロの拠出を発表した。